編  集  後  記


 今号の冒頭に取り上げた『隣にいても一人』について、2月8日の北海道新聞(石田透記者)が取り上げている。
全国の8つの劇団が、それぞれの土地の方言を使ってこの戯曲を競演するという企画が、東京アゴラ劇場で上演されたという報告である。
この企画は面白いし刺激的ではあるが、物足りないのは、この報告には、この戯曲が内面に持っている意味についての言及がないということだ。
表現作品を観る場合、僕は二つのベクトルで見る。縦の感動と横の感動である。
縦とは簡単に言えばテーマでありメッセージである。でもそれが生で表わされているのはダメである。物語の中にさり気なく隠されていることが絶対条件である。もちろんそれは観た観客が自分で感じることであり、決め付けるべきではないのは当然だが、この記事の中に書いた人の一言がほしいと思う。僕自身は本誌のこの号で自分の見方を書いている。
この報告の中には「昇平とすみえが『気が付いたら夫婦になっていた』という不条理な設定は、劇中にも登場するカフカの『変身』を彷彿させるが、別れようとする兄と姉の先輩夫婦が絡むうちに、『何をもって夫婦なのか』『そもそも夫婦とは何か』を自然に客席に感じさせる」と、矮小化された紹介しかないことに大きな不満が残った。
そして横の感動だが、これはセンスと表現力である。感覚的なものであり、そしてこれにも当然、好みや個人差がある。
この報告とは直接に関係がないが、この二つのベクトルを常に意識して観る。

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私たち北海道演劇界の大先輩、演出家であり演劇史家である鈴木喜三夫さんが07年度北海道文化賞を受賞された。
せっかくの祝賀会には残念ながら出席できなかったが、後で記念誌『芝居と生きるU』を送っていただいた。
その中に、僕が以前鈴木さんが演出された『飢餓海峡』について書いた文章の一部が三箇所にわたって引用されていた。
そのことについてはあらかじめ鈴木さんから連絡があったのだが、改めてこの記念誌を読むと、こうやって紹介していただいた名誉と共に、この記念誌に載せていただく価値があるのかなあと自分では分らない不思議な感じがしている。

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今年も2月10日に『熱闘三分間劇場』が鷹栖メロディホールで行われた。第9回の今年も僕の所属する集団は2チームが参加した。さてこの上演の中で二つのことを感じた。
今年の参加チームは18組と例年に較べてかなり少ない。何時もだと大体30チーム前後が参加する。これをどう考えるのか?
元々が「三分間、舞台を貸します」というコンセプトで始まった行事だから、その内容についての規制は全くなかったのだ。しかし回を重ねるにつれてグレードアップし、ミニ演劇に特化されてきた。僕たちはそのつもりで参加してきたのである。
しかしそれが今年はかなり変わったような気がした。参加者たちが演劇としてキチンと創っていないようなチームが多いようなのだ。
主催者(事務局・鷹栖町教育委員会=主催・実行委員会)側からすると、むしろそれが本来の姿だと考えているのかも知れない。
もちろん、そういうやり方が演劇の裾野を広げ、演劇を楽しいものとするために大きな影響力があるということは肯ける。だが僕たちはわずか3分の中でどうやって本当の演劇作品が創れるのか、という視点で企画・制作・参加しているから、そういう考え方との微妙な差異を物足りなく思うのが実感である。
もう一つ感じたのは、3分という規制である。これも元々は、出来るだけ沢山の人たちに参加して欲しいという意図からの制約である。
だがこの制約は絶対的なものではない。自分が3分と思えば良いという無節操ともいえる緩やかなものだ。だから例年最長13分などというチームもあったが排除はしなかった。
その中で僕たちは出来るだけ短い時間内でどれだけの芝居を創れるのかに腐心したのであった。だが結局3分では無理なのではないかというのが結論であり、5分ならなんとか起承転結が創れると考えた。もちろん起承転結のない演劇があっても良いかとも思ったが、それは取らなかった。
映画にも「ショートフイルム」というジャンルがあって、それ自身完結した分野でもあるが、通常の映画とも共通する部分も多いと聞いている。
演劇にもそれがあっても良いのじゃないかと思うわけである。だからこの『熱闘三分間劇場』は本来の目的を進んで、別に短編演劇に特化した企画を新しく進める方がスッキリとするのではないか? と思ったのだ。
現に3年前にその考えで「豆芝居」という企画を考え、8劇団がそれぞれ短編演劇を創って参加上演する企画をやったことがある。様々な障害で一回きりだったが、あれをどんな形でか再開できないかと思っている。
ちなみに今回の僕の所属する集団の二つの作品のうち『宝の箱』は「脚本賞」を受賞して面目を果たした。この作者・佐々木和美は一昨年も「脚本賞」を受賞して確実に育っていることを実感している。今、短編(30分前後)と長編戯曲に挑戦している。


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 雑誌『悲劇喜劇』(早川書房刊)3月号の「07年演劇界の収穫」という特集記事に、三年続けて『続・観劇片々』が紹介されました。誌名と氏名だけですけど……
大衆演劇研究家という肩書きで『笑息筋』という演劇月刊誌の編集発行人でもある、原健太郎さんの執筆です。この方にはお会いしたことはありませんが、情熱的なお手紙をいただいています。驚異的な読書家でもあります。
この特集は演劇人や評論家50人が、それぞれ「A=舞台」・「B=戯曲」・「C=俳優」・「D=書籍」の4項目で推薦するという企画です。
『続・観劇片々』の、この三年間に亙って、その年に発行された4冊の中から何点かを特定して挙げてくださっているわけで今年も16・17・18号の三冊を挙げていただきました。
月並みな言い方ですが、裏切るような文は書けないぞと改めて思いました。厚くお礼を申し上げ、これを励みに精進するつもりです。
評価していただくのはとても嬉しいのですが、それは結果であって、僕自身は自分の感性を磨くためであり、芝居を観ない人と見る機会のなかった人への案内のつもりで書いていることを再確認いたしました。
原さま初め、いつもご愛読の皆様ありがとうございます。