演 目
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観劇日時/07.9.14
劇団/劇団偉人舞台
公演回数/旗揚げ十周年記念公演
脚本・演出/我孫子令 照明/佐久間巨照 照明OP/大路明日香 美術/高田久男 舞台監督/松井啓悟 
音楽/我孫子泉・安達たけし 音響/五井利枝 衣装/鵜飼麻里 デザイン/GreatmenDesign 
制作/鈴木陽子 制作協力/エス・アール(札幌公演) 
劇場/コンカリーニョ

荒唐無稽の真実

 歴史上の事実と、伝えられている歴史的な記述(史実)とが違っていたらどうなるのか? というモチーフから発想されたと思われる戯曲か?
明智光秀が病気で本能寺には行けなかったのに織田信長は暗殺されたのが事実であるとすると、これは現在のその子孫たちの存在が否定されることになる。それを事実通りにするための「ヒストリー」という会社がある。支店長(=菊池正紀・札幌公演)。
この社員はその問題のある時代に派遣されて歴史の記述通りの行動をする。基本が荒唐無稽なので、無理でもいいから何とか辻褄を合せなければならない。
新入社員の滝一哉(=我孫子泉)はやる気のないニート、何とか食うために入社したとたんに明智光秀になって織田信長(=鹿島良太)の元へとタイムマシーンで潜入する。そのために声紋をとって光秀になりすまし、マインドコントロールの技法を使って相手に光秀だと信じ込ませるという方法を用いる。
ただ本能寺の変が近づき、緊急だったのと新人だったために、歴史の記述を覚えこませる時間がなく、何の予備知識もなくいきなり信長の面前へ放り出される。そこでチグハグのドタバタが起きる。
マインドコントロールされている信長をはじめ羽柴秀吉(=我孫子令)・滝川一益(=増田良昭)・柴田勝家(=渡部龍平)という光秀を含めた四天王の残る三人や、森蘭丸(=菊池拓帆)、濃姫(=高村圭)たちも滝一哉の光秀を疑わない。それどころかとっさに記憶喪失を装い現代語を乱発し砕けた物言いをする滝・光秀を好感をもって迎える。
壮大な理想と当たるを幸いなぎ倒す矛盾に悩む信長に、シンパシイを感じて使命を忘れる滝・光秀。それを軌道修正しようとする先輩の時代駐在員という監視者たちは、忍者(=吉村啓史・蓮伸之介)や腰元(=穴吹実織・札幌公演)になっていて、滝・光秀を監視しバックアップする。忍者や腰元は史実に残らないからどうでもいいといういい加減さだ。
ともすれば任務を忘れて信長を助けようとする滝・光秀。それは現在を否定することになるという「ヒストリー」の駐在員監視者たち……
信長に利用されて虐殺された甲賀忍者たち(南部孝司・飛永龍男・望月敦)を含めた三つ巴の乱戦が繰り広げられるが、信長暗殺の陰謀が実は秀吉の策略だったという結論。何時の世も理想と現実との相克、一つの時代に二人の英雄はいらないという秀吉流の権力志向が描かれる。
もう一人の腰元(=鵜飼真帆)は、滝が好意をもった会社のOLと二役で、滝はデジャブェに苦しむというエピソードがあったりして……
もともとあり得ない状況を題材にしているのだから、多少ご都合主義であっても納得のゆく説明があれば容認できるが、この場合、無理を承知で辻褄を合せていたために疑問を提出する隙がなく話に溶け込めた。
面白かったのは、突然に現代から戦国時代に紛れ込んだためにすぐ現代的で軽薄な会話をする滝・光秀の言葉を、彼らは最近の京都の流行り言葉として取り入れていくナンセンスの可笑しさがギャグとして大いに笑えた。
笑劇の体裁を前面に出しつつ、歴史観がしっかりと基本に据えられて好感がもてたのと、伊賀流忍者の頭目(=南部孝司)のとぼけながら間の良い、しかも底知れない怪物ぶりが印象的であった。