演 目
スプレドッグ!
観劇日時/07.8.18
劇団名/Plasmania
公演回数/4th act 「スプレドッグ」 新得 公演
脚本・演出/谷口健太郎 振付/喜井萌希 照明/前田ゆりか 音響/斎藤いずみ・丹治誉喬
制作/吉田美穂・北山光次朗・中村友紀・黒沼陽子・對尾華夜 宣伝美術/星雅也 美術協力/高済達也
写真/常本明日香 映像制作/DAN 舞台/上田知
劇場/新得町公民館大ホール

どこかで聞いたか、見たことがあるような

 小さな編集請負会社の新人・渡辺優介(=村上義典)は要領も悪く、内気で思ったこともいえない。仕事で失敗ばかりで落ち込んでいる。
恋人(=喜井萌希)は、そんな彼がじれったいが逆に支えになってやりたいと思っている。
直属の上司(=入江千鶴香)は、渡辺が入社するまではやはり仕事が出来ず編集長(=太田真介)に叱られてばかりいて萎縮している。中間管理職(=小泉悠太)は、彼らの間の調整役である。
渡辺優介は、兄妹の犬(=ナオ=谷口健太郎・下山美里)を飼って溺愛している、というか全面的に彼を頼りきっている犬によって彼は元気を貰っている。
ダメ上司も能天気な犬(=谷原聖)を飼っているが普通の付き合いあいだ。
優介と二匹の犬は、当然ながら言葉によるコミュニケーションは出来ない。犬は犬同士のとき人間の言葉を話す。人間はいくら犬に話しかけても一方通行のもどかしさに悩む。犬だって思いを言葉で伝えることは出来ない。
これはデスコミユニケーションの悲劇の話かと思って観ていた。サブタイトルも「どうしてもあなたに伝えたい」とある。
仕事で大きなミスをした上司は、責任を優介になすりつける。優介は身に覚えのないミスの不条理さに絶望して辞表を出し、後に残る犬たちの世話を恋人に託してこの地を逃れようとする。
それを知った愛犬のナオは重篤の身にも関わらず猛然と優介のいる駅を目指す。出発寸前の優介はギリギリに追いついたナオの「僕の飼い主でいて欲しい!」という悲痛な言葉を聴いた気がした。
家にも会社にも戻った優介は、切羽詰って優介に責任転嫁して後悔した上司や、恋人や中間管理者などの協力と、もちろん犬たちの愛情の中で、新しいプロジェクトを何とか成功させて編集長を喜ばす……
何かどこかで観たことがある、聞いたことがあるという気がする。「世界の中心で愛を叫ぶ」とか「カオルちゃん、遅くなってゴメンね」とか……
演出も的確で演技もしっかりしていてスピードとリズムもあり、細かな表情や微妙な心理描写も隙がなくて技術的には申し分がない。
だが僕が引っかかるのはご都合主義的な話のつくりだ。まず、話の芯になる仕事のミスの問題だ。いくら要領が悪く仕事が出来ないといえども、アポイントをとった相手に取材しなかったという基本的なミスはあり得ない。その設定が甘いからその後の話に入っていけない。
次に、大事なときに愛犬のナオが不治の病気になる。これも都合がいい。そして犬の兄がペットショップで買ったのに妹犬が捨て犬を拾ってきて、偶然、犬の兄妹が再会した、というのも無理な設定だ。
さらにラストで大きなプロジェクトが、この非力の新人二人によって大成功というのも非現実的だ。そういう細かな部分にリアイリティが欠けるので非常に困ってしまうのだ。
こういう舞台は、そんなことは考えずに彼らの心理状況に感情移入して楽しめばいいのかもしれないが、やはり僕にはピンと来ないのだ。