演 目
ザ・ラッキー・ストライク
観劇日時/07.6.24
劇団名/劇工舎ルート
公演回数/第12回公演
作/村井真也
脚色/赤玉文太
演出/高田学
舞台監督・照明/伊藤裕幸
照明操作/元井聡子
音響効果/高田光江
音響操作/中谷ユイ
舞台美術/田村明美
制作助手/星野義和
劇場/シアター・コア

シャングリラ崩壊の風俗喜劇

 古臭いアパートの、和室の集会室のような部屋。高校の同級生らしい、いずれも31歳という男女の5人が集まっている。彼らはこのアパートで共同生活をしているのだ。
学級委員だった男は一応エリート会社員(=松下宏)で、相棒の調子のいい男はパチンコ店の店員(=木曽好正)。女たちはそれぞれ適当にOLをやっているが、酒だけが好きな(=武田千春)とか、結婚願望が異常に強い(=田村明美)とか、情けない恋人に貢いでいる(=中村みはる)とか、頼りないが個性豊かで一種魅力的な女たちだ。
5人は仲が良く、エリートを中心に合議制で生活をし、ささやかながら共通の預金もあるようだ。
それそれがそれぞれの生活基盤を持ち、恋人や婚約者もあるのになぜ、高校時代の仲良しというだけでこういう生活をしているのか? 現在の個人の生き方には不安があるのだろうか? それに較べて高校時代の利害関係がない純粋な人間関係に心の安定を求めていたのだろうか? そういう日常がささやかなさざ波を起こしながらも淡々と描かれる。
さてヒョンなことから、忘れるくらい以前に偶然拾ってそのままになっていた宝くじが出てきた。どうせ当たっているはずはないと言いながらも、もし2億円あったらどうしようというバカな話で盛り上がる。
偶然、情報誌に当選番号表が出ていた。2億円が当たっていた……。そこからは欲望丸出しの自己主張が始まる。
しかし冷静になってみると、今頃情報誌に出ているのが怪しい、とかミスプリじゃないのか? とか、回数の見間違いじゃないの? とかさまざまな意見が出るが、だれも怖くて確かめられない。ともかく明日、銀行へ行ってみようとなるが、5人はお互いが信用できず、眠ずの番をすることになる。
落ちは、「明日は土曜日だ」という誰かの一言で幕。つまり、いったん壊れた5人の信頼関係の中で、あと二晩の徹夜に耐えられるのか? という言外の皮肉であった。
高額の宝くじに当選したら? という設定で、人間関係の変化を皮肉に観察する喜劇はよくあるパターンだが、31歳という微妙な年代の男女5人の共同生活という背景が珍しく、不安定な現代社会の中での一種のシャングリラ志向と、その崩壊の物語りと読めるのだが、そのことの方に興味と関心が強かった。
当日パンフによると、この戯曲の原作はネット上で公開されていて「脚色等も好きにやっちゃってください」とあったそうだ。先日もネットから引き出した戯曲を上演したのを観たのだが、そういうシステムにもちょっと時代を感じて驚くわけである。
創作を自由な形で発信し、それを自由な形で継承するというのは、さまざまな分野で行われているようで、そのこと自体は良い傾向だとは思うのだが、はたしてまったく弊害はないのであろうか? あるとすればどんな欠陥があるのだろうか? たぶん老婆心であろうものが持ち上がるのだ。