演 目
映画/キサラギ
観劇日時/07.6.20
製作/「きさらぎ」フイルムパートナーズ
原作・脚本/古沢良太
監督/佐藤祐市
音楽/佐藤直紀
劇場/札幌シアターキノ

五人の男たちの人間模様

 キサラギ・ミキというアイドルが自殺して1年目、フアンであったハンドルネーム「家元」と名乗る男(=小栗旬)が、インターネットで一周忌法要を営む集いを企画して、その日全く初対面の四人の男たちが集まってくる。
 ミキは男たちが言う通り、D級の売り出し中アイドルだ。フアンと言っても、まだまだごくごく少数の限られたオタクたちしかいないようだ。
 「家元」の住まいは、まるで廃工場のような殺風景で無機質な空間であり、近代的といえばそうだが、いかにも人間関係の薄い雰囲気が強い。
 「家元」を含めて5人の男たち、「安雄」(=塚地武雄)、「オダ・ユージ」(=ユースケ・サンタマリア)、「スネーク」(=小出恵介)、「イチゴ娘」(=香川照之)は、ミキの死因を巡って推理を巡らすうちに、殺人あるいは事故死なのではないのかという疑問で激論する。
 そういう激論の中で、四人のプライバシーが徐々に露わになっていく過程がスリリングに描かれ、それはまるでサスペンスだ。
 しかも4人の生活の背景がそれぞれに全く違いながらリアリティが強く、現代に生きる人間たちを描く社会派的な様相を強烈に意識させられる。四人は自分からは言わないが、それぞれがミキとは個人的に密接で強い繋がりのあることが次第に明らかになる。
 それは逆にミキの社会的に孤絶した寂しさを証明する事でもある哀しい現実でもあったのだ。
 そして特筆すべきは、この2時間の経過がすべて「家元」の殺風景な一室だけで行われていることだ。まるで密室での舞台劇だ。どこかで上演してほしいような素材だ。なまじっかな芝居よりよっぽど演劇的だ。
 もちろん2・3箇所でミキの回想場面が出るが、これは無くても全く問題ない。むしろこの場面はない方が想像力をかき立てるだろう。なまじチラッと見せない方が純正性が保たれる。
 それとラストでやはりミキのライブ場面の映像が出るが、これも蛇足で、ミキのイメージが固定されて観客の想像力が限定され、男たちの普遍性が矮小化されてしまいいささか残念な終わり方であった。