演 目
ニングル
観劇日時/07.6.13
劇団名/富良野GROUP
作・演出/倉本總
その他のスタッフは不記載
劇場/深川市文化交流ホール み・らい

啓蒙的な社会派劇

 ニングルとは、おそらく架空の人種というか一種の妖精だろうか? 地元に伝承されている身長15pほどで300年もの長命の、森に住んでいる先住民族らしい人たちだ。
コロポックルといわれる、日本語で蕗の下の小人という人種の実在が議論されたことがあったらしいが、いずれにしろ現存は確認されてはいないようだ。
富良野近郊の開拓地に住む人たちは、補助金を頼りに森の木を切り拓き、機械化した大型農業に夢を抱く。ある夜、新婚の夫・勇太(=水津聡)、幼馴染で妹の夫・才三(=杉野圭志)、末妹スカンポ(=杉吉結)は森に遊びに出る。
三人はそこで「森を伐るな、伐ったら村は滅びる」というニングルの声を聞く。スカンポは聾唖者だが彼女はニングルと手話で会話が出来るようだった。
才三はその言葉を信じる。もともと開拓事業は村の意見が二分され、才三は反対派だったのだ。ニングルの話は誰も信じない。才三は地元新聞に投稿して、村は再び紛糾する。
勇太はいまさら開拓事業は止められないと、ニングルの存在を否定する。開拓事業は進められるが森をなくしたことにより鉄砲水が溢れ、水源は枯れ、農業は成り立たなくなり離農家が増え村は崩壊する。
才三は妻(=森上千絵)に懇願され森の伐採に出かけるが、村の共同性を重んじる妻と自分の意志との板ばさみになって、自分の伐った樹の下敷きになり自殺する。
勇太は冷害が続き営農不能に陥り、その上、才三を裏切った自責に苦しみ酒に浸っているとき、妻(=松本りき)が出産する。
苦しむ勇太の父(=久保隆徳)は、その父(勇太の祖父の亡霊)の教えに従って、森に風倒木を運び込んで森を回復させるように言い残して自死する。
この話のテーマは04年10月、村松幹男が書いて劇団『シアター・ラグ203』が上演した『だから彼女は舟に……』に酷似している。つまり強い使命感による拙速で生硬な表現という意味において……
そのときにも書いたが、人類終末の危機に対して焦慮感が強すぎて説教調に感じられてしまう。意識の少ない人たちにとっては啓蒙としては良いかもしれないが、押し付けの感が強いのが困ったことだった。演劇は説教や論文ではない。時代のナビゲーターだ。教え諭されたら反撥する。演劇やってる場合じゃないだろ? となってしまう。事実、全共闘の時期にそれを経験した。
冒頭の結婚式のスタイルは、どこかの風習のようでもあり架空のものかもしれないが、この群舞はユニークで迫力があり、ラストの風倒木をドラムにして20人くらいの人たちが演奏するパーカション合奏も面白かったが、全編に亘るスローモーションの多さが白けた。
前回の『谷は眠っていた』の冒頭の20人くらいで登場するスローモーションは迫力あって期待感を持たせたが、このときも多用されて、かなりもたれたことを思い出した。
その他の出演者は
佐々木麻恵・東誠一郎・久保明子・来栖綾濃・石川慶太・大山茂樹・富良野GROUP