演 目
夜明け前 昇る陽 覚めない夢
観劇日時/07.6.9
劇団名/劇団 しろちゃん
s1シアターin北大祭9
脚本・演出/難波悟
照明/市瀬拓郎・斎藤崇広
音響/八鍬志保・日下圭太 
衣装/伊藤都・小松礼奈・小野寺ゆい
舞台監督/稲田桂
具象監督/岡松広忠
舞台・小道具/伊藤陽一
具象/青山洋路
舞台・立て看板/木村英輝
舞台・場内装飾/吉松幸里
制作/木村卓哉
情宣デザイン/坂本恵理
情宣事務/小川原香織
受付/川崎正隆
劇場/北大高等教育機能開発総合センターS棟s1教室

幻想とシュールとミステリーと

 大学の講義室に造られた狭い仮設劇場、客席は学生が座って講義を受けるために、横に連なってはいるが、れっきとした机だ。荷物を置いたり膝を突いたり楽な姿勢で観ることが出来るなかなか素敵な客席だ。
そんな狭くて天井の低い舞台に設えられたのは、古ぼけた古道具屋、外にはこれも古い街燈がヨーロッパ風の雰囲気を醸し出している。そこは湿った空気とひんやりとした雰囲気の漂う空間で、懐かしいレトロな設定である。もう一ついえば僕の好きな状況設定でもあるのだ。
 その古道具屋に何年か前に偶然に訪れた一人のサラリーマン(=畑中泰大)を巡って展開される。彼は自分の特異な経験から何年かを過ぎて、その過去の不思議な体験の現場を再確認する旅を再現するという構成になっている。
 古ぼけて商売にならないような、古道具屋というか骨董屋というか、一種のアンテークショップの店で、良くいえばレトロだが、悪くいえばガラクタ屋で現実にはなかなか商売にはなりにくい状況だ。
 だが、いかにもありそうな現実的な設定であり舞台装置もリアリティがあって観劇前の期待感を煽る。
そこには不思議な客たちが出入りしている。客1(=長沼知志)は何かを焦っている。脅迫まがいで何かを売りたいらしい。客2(=大場春香)は何かを忘れたようにボンヤリとしているが予約の品を取りに来ても、なかなか出来ていないようだ。
客4(=村田昌平)も何かを売ったり買いたいらしいが具体的には判らない。客3という人物はプログラムにも記載がないし登場もしない。意図的で不思議な存在なのか、単に間違っただけなのか?
意図不明の私立探偵のような男(=金尚教)はプログラムによると弁護士となっているが、何を弁護しようというのか、利権を漁っているような感じもする。
そして店主の老人(=吉本拓郎)と助手と称する店員の少女(=品田実穂)はなぜ助手なのか?
サラリーマンの男は何年か前、出張の際、偶然訪れたこの古道具屋に魅せられて誘われるまま、この店に泊り込んでこの不思議な人物たちにのめり込む。
だんだん判ってきたことは、この店は客から注文を受けてその客の思いである心象を取り出し、それを形のある作品、たとえば絵であったり彫刻であったり文章であったりするのだが、再生して戻すという仕事であるようだ。
ただその加工法に秘密があるらしい。その秘密を探っているのが弁護士だったのだ。弁護士は客1と4からその秘密の方法を使って彼ら二人の心象を全部とりだすと二人は心のない物体となって座り込むだけの人形と化する。
助手の少女がすぐ何処でも眠ってしまったり、呼吸が止まったりするのだが、店主は慌てない。これも後でわかるのだが、彼女は人形であったのだ。店主が自分の仕事を手伝わせるために誰かの心象を吹き込んで一時的に生かしていたらしい。
こういう話がサラリーマンの回想として描かれる。そして回想に入る場面と終わる場面に酔っ払いの通行人の男(=武田展也)が、サラリーマンと摩り替わって登場するが、彼の存在はこの話は一サラリーマンだけの話ではなく、貴方にも起こりえる話だよ、ということだろうか?
レトロでシュールでミステリアスな舞台だが、現代人の拠り所の薄い不安感がよく表されていたようだ。
舞台装置の現実感に対して、話がリアリティの薄い物語なので、具体的な部分に充分なリアリティを持たないと全体が嘘の上に立ってしまうので全体が信じられなくなる。
たとえば、このサラリーマンがこの店に何日も泊り込むことの裏づけがないことが気になる。後で何日居たのだと弁護士に問われて判らなくなるという部分で、すべてが彼の妄想であったのか? とも取れるが、観ている間中はその疑問が引っ掛かって気になる。
少なくても、劇中ではその必然性が説明されていないと入り込めない。それは少女の息が止まったときもそうだ。そのときは人間として見ているので何か合理的な説明が必要だ。
終幕近くになると、おそらく色んな謎が一気に解けるんだろう思われるから我慢が出来るけど、進行中は大いに気になるのだ。ミステリィは謎が最後に解明されるのだが、途中で感じられた不自然さはラストですっきりと解明して欲しかった。中途半端な歯がゆさで悔いが残ったのである。