演 目
冬の入口
観劇日時/07.6.9
劇団名/弘前劇場
2007 シアターZOO Re:Z公演
作・演出/長谷川孝治
舞台監督/野村眞仁
照明/中村昭一郎
音響/櫻庭由佳子
舞台美術プラン/青木淳 
セットコンストラクト/高橋淳
装置/鈴木徳人
宣伝美術/デザイン工房エスパス
制作/弘前劇場
助成/文化庁
劇場/シアターZOO

生と死のあわい

 北海道の今の時期は、年中で一番良い気候だと思われる。それはまさに「夏の入口」といっても良い時候だ。そういう時に、地下の穴倉みたいな暗闇に閉じこもって1時間半を過ごすのは、生きていることの反対側にあるような気もする。
「冬の入口」とは、夏と冬との対比で考えれば、死への入口をも象徴している。そして「弘前劇場」は前回の『夏の匂い』も、夏という時期を背景にしながらやはり「生と死の群集劇」を上演している。
だから今回の『冬の入口』は『夏の匂い』と一対をなしている。やはり群集劇として一人一人の「生と死」の感覚を問題にしている。生きている人間が絶対に逃れられない「死」にどういう対応をするのかということを、丹念に描写する。
場所は火葬場の待合室。簡単で簡素な木製のテーブルが2台とこれも木製のスツールが15脚ほど、奥には畳の小上がり風の台が一面に設えられている。壁面は三方に白い紗幕が反物風に垂れ下がっていて、それが鯨幕のイメージになっていて簡素だが上品な雰囲気である。
集まっているのは故人の長男で書店の専務・大友勝俊(=福士賢治)、その妻・大友まゆみ(=石橋はな)、次男で料理屋の店長・大友俊勝(=山田百次)、その妻・大友萌(=斉藤蘭)。
故人は書店の経営者であると同時に、地元では有名な俳句短歌の大御所であった関係で、結社の幹事・長島光太郎(=鈴木眞)、会員の久保レミコ(=青海衣央里)、緊急問題である開市百年記念の作品選びの相談に来た教育委員会主事(=濱野有希)。
書店の社員(=高橋淳・林久志・平塚麻似子)、次男の勤める料理店の料理長(=長谷川等)。斎場主任(=永井浩仁)、斎場係長(=鳴海まりか)。
これらのさまざまな人たちが、雑多な日常を持ち込みながら、僧侶の交通事故による遅着というハプニングを通して、故人の死を自分の生との関係で感じていく。
ボイラー室に紛れ込んだフクロウを捕らえ、鳥かごに入れて持ち込むエピソードは象徴的だ。フクロウは夜のシンボルであり、そのフクロウが発する金属的で不気味な警戒声は死へのナビゲーターの趣きでもある。
そしてラスト近く、故人と親しかった料理長の知らせで東京から来た異母弟(=平間宏忠)と、その妻(=工藤早希子)。彼らは兄たちと会うのは今日が初めてである。
次男と彼との話の中で、異母弟は「どんな親父だった?」と聞く。次男は「あんたが思っていた通りの男だよ」と答える。
そのすぐ後、二人は故人の好物だけで作った精進料理でない弁当を食う。猛烈にひたすら食い続ける……生きている証のように食いまくっている二人のシーンで照明が静かに暗転して幕であった。
今回も大勢の出演者が、実にリアルな演技で臨場感を味わったが、やはり人々の心の奥に抱え込んでいる日常の葛藤のマグマは感じられなかったのであった。