演 目
CHERRY
観劇日時/07.6.2
劇団名/苗穂聖ロイヤル歌劇団
公演回数/4th SPECIAL STORY
作・演出/川尻恵太
プロデューサー/前田ゆかり
舞台監督/上田知
照明/和田研一
音響/Lynn
演出部/伊藤若菜・野村孝志 
音響オペレーター/森みゆき
衣装/高橋綾香
ヘアメイク/今井由架理・小山田梨乃
小道具製作/川崎舞
制作/村山真希・五十嵐宣勝
劇場/BLOCH

ギャグとナンセンスの「戦争と平和論」

 虚言症(嘘つき)の老父(=齊藤雅彰)が病院をひっそりと抜け出し、雪の山奥の隠れ家に逃げ込んでいる。それを追って来たサラリーマンの息子・テツオ(=矢崎進)はそういう父親に手を焼くが、老父は40年前の戦争の悪夢から逃れられないらしい。息子に過去の忌まわしい思い出を語り出す。
 そのころ徴兵から逃れるために彼はウソを吐きまくっていた。今、逃げ込んでいるこの過疎の山村が当時のその地であったのだ。そこには戦争遂行の邪魔になる廃人たちが集められ治療されていたが、そのことを感づいている彼らは、自分たちの世界を必死に守っていた。
 若いころの老父(=小野優)のほか、精神障害だが心優しいアニ(=山田マサル)と妹のハコ(=今井香織)は近親相姦的な関係。
武器を見るとジンマシンが起きるカユイ(=氏次啓)この村を治めるオサ(=ツルオカ)とその妻(=伊東真澄)。そして兵士に復帰させようとする医師(=藤谷真由美)と看護師のアシ(=大和田舞)。
そこへタイムスリップして迷い込んだテツオ、逃げ込んできた敵国の兵士(=谷口健太郎)追い詰められたこの国の指導者である身勝手な王子(=小原アルト)たち。
 それらの日常が極端なナンセンスとばかばかしいブッ飛んだギャグの連発で、スピードあふれる展開が客席を包み込む。
戦況のテロップが、ナンセンスな文言で要所々々に表示されるが、一種の緊迫感があって全体のギャグやナンセンスと巧く表裏をなして劇的効果を挙げている。
 ラストシーン、精神薄弱で妹思いの兄が、王子の身代わりになって戦争終結の為に敵兵に撃たれて死ぬのを知ってハコも息絶えるが、この少女はもしかして現代のテツオの母親かもしれないという想像の余地を残してほしかった。
 この可憐な少女は、咳き込むと悪いことが起きるという宿病をもっているためにこの地に居たのだが、この存在は空気の汚染を真っ先に探知するカナリアの謂だろうか?
 村長のオサとその妻のカナイ、彼らは村人たちを保護する建前で実は敵国に通じようと策略を弄する。しかしコメディリリーフとしての演出・演技が圧倒的に巧いので何か憎めない存在に感じられて人間の滑稽な弱さを巧く表現して圧巻だ。
 戦争と平和についてまじめに考えているのは良いのだが、情緒的になっている弱さが気になる。しかし若い人たちが、そういうことを考えるきっかけになるのではないのかと前向きに考えたい。