演 目
『アイ』〜Who Are You? Who Am I? V〜
観劇日時/07.5.26
劇団名/RUSH!!
公演回数/9th Act
脚本・演出/高橋逸人
照明/相馬寛之 
音響/石嶋南絵
企画・制作/RUSH!!
劇場/シアターZOO

後付けの自己確認

 「オカマだ! 赤信号(劇中のギャグを一部借用)」=「男鎌田真吾」の、あの独特で奇妙でエネルギッシュな音楽が聞きたかったのに、そうは問屋が卸さない。「真吾の歌を本気で聞きたかったらライブに来るかCDを買いなさい」という策略だろうか?
 だからCDを買おうと思ったんだが、1時開演という中途半端な時間だったので、終演と同時に急に腹が減って、CD買うのを忘れてしまった。
 さて話は単純だ。死んだのにこの世に未練を残したサラリーマンの男(=高橋逸人)が、自分の死を容認できずに浮かばれない。何とか残した妻(=オギ)子(=伊藤賜恵)とコミユニケーションを取りたい。
 だがことはそう簡単には運ばない。あの世の案内人(=男鎌田真吾)や、その上司(=加藤由紀恵)たちや、この世の媒介人である猫のミツコ(=飯田里果)の精によっても、死んだ男はその妻子との片方通行のコミュニケーション以上にはなかなか広がらない。
 貴方は誰か? という命題は他人からは分かりやすい。だが自分は何者か? という疑問は答え難い。これまでのバージョンでは、それが物語を膨らませ面白くしていたはずだ。
だが今回の最終編と銘打った舞台には、これまでもずっと提示されてきた、この戯曲のメインテーマである、死後に進むべき二つの方向、「輪回転生の道だが、過去の記憶はすべて抹殺される生き方」と、「孤独な道だが自分の信じる生き方ができる道」という、厳しい選択の劇的表現がなかった。
 あるのは、生きていたときの不完全な生き方をやり直したいという甘ったれた感情の再確認であって、失った家族の、死後の思い出の中の甘ったるい再生を期待したいという死者の残念話だった。
つまり簡単に「輪廻転生」の道を選んでしまう過程に、選ぶと言う葛藤が不足していたのだろう。
 初演の「自分の生き方に対する真摯で真っ向勝負」に、自分の真のあり方を探すというドラマを期待したかったのに、単純な家族の再生願望の話に矮小化されてしまったのは残念であった。