演 目
アルジャーノンに花束を
観劇日時/07.4.17
劇団名/劇団 昴
公演/旭川市民劇場
作/ダニエル・キイス
脚色/菊池准 
演出/三輪えり花
美術/小松主税
照明/古宮俊昭・渡辺省吾
音楽/日高哲英
音響/山北史朗
衣装/萩野緑
振付/小牧らん
舞台監督/黒木辰夫
絵/七戸優 
宣伝美術/北村武士
協力/早川書房
制作/演劇企画JOKO
劇場/旭川文化会館大ホール

現実という闇の迷宮から生還した男

 これは寓話劇だ。SFっぽいお伽噺だ。ずいぶん古くからある芝居だが、梗概を読んで荒唐無稽な気がして余り観たいとは思わなかった。だが結果は大収穫であった。
舞台はパイプで組み上げた一種の抽象的な造りで、その基本舞台を映画のように次々と変化するシーンの背景として広く使われる。違和感は少ない。
チャーリー(=平田広明)は32歳、8歳くらいの知能指数で両親からも見放され、人の良さを愛されてパン屋でこき使われているが少しも挫けず明るく働いている。
大学で脳医学の教授たちがアルジャーノンという名の白ねずみに脳外科手術を施し、その結果アルジャーノンの知能指数が大きく向上したのを受けて、人体実験の対象にチャーリーが選ばれる。
手術は成功しチャーリーは驚異的に知能が向上し、やがて理論の大御所や神の手をもつ執刀医よりも、脳医学の研究ではずっと上位に立つ。そして知的障害センターの女教師アリス(=服部幸子)を愛する。
アルジャーノンは小さな箱の中の迷路を辿る力量が、向上する知能のバロメーターになっているのだが、チャーリーは知能が高くなるにつけ、社会の矛盾、たとえば教授たちの名誉欲と保身の醜さ、だんだん思い出す両親と妹からの疎外感、隠れ家の隣人フェイ(=松谷彼哉)という女流画家の自然体への憧れ、パン屋の同僚の親切ごかしの背徳……彼自身が現実の闇の迷宮に嵌まり込み、ついにアルジャーノンを連れて身を隠す。
だがアルジャーノンは徐々に破壊されていく。実験は失敗したのか? アルジャーノンの変化は当然自分にも現れるのではないのか? 実験失敗の結果、すべての記録は抹殺されるのではないのか?
ついに、「死んで裏庭に埋めたアルジャーノンに花を供えてくれ」と、最後の意識で伝言したチャーリーは元の8歳の知能に戻ってパン屋へ戻る。同僚たちの「病気が治って良かった」という歓迎を受けて無邪気に喜ぶチャーリーに被って、ゆっくりとしたテンポのハッピバースディのピアノソロが忍び込んできた。