演 目
満開の案山子がなる
観劇日時/07.4.15
劇団名/劇工舎ルート
公演回数/第11回公演
作/山岡徳貴子
演出/伊藤裕幸
舞台美術/田村明美
照明/伊藤裕幸
音響効果/高田光江 
制作助手/高田学 
協力/加藤亜紀・田代麻実子・林川佳菜絵
劇場/旭川シアターコア

傷ついた切ない心

 築30年という六畳一間のボロアパートの夜、若い女(=中谷ユイ)が一人屈託している。ちゃぶ台にノート・電卓・領収書が何枚かと鉛筆などが散らかっている。封筒を開封しようとして何か怪我をしたようだ。
電話がなる。少し気にして受話器を取り上げるが、お互いに無言……しばらくしてまた呼び出し音……何度かあって、やがてもう若いとはいえない男(=星野義和)が帰ってくる。
やがて分かるが、この二人は夫婦でも恋人でもない。二人だけの新宗教の構成員であり、女は事務担当、といっても終日、月に何行しか書かれていない出納簿を何度も何度も計算している。
男は街頭で宣伝勧誘のチラシ配り担当。反応はまったくない。二人とも虚しい実りのない行為を繰り返しているだけのようだ。
実は、以前には50人以上もいたのだが、教祖と幹部たちが財産を持ち逃げして、残ったのは誠実な二人だけだったという話しのようだ。
男は普通のサラリーマンで妻子がいるのだが、仕送りをしながら女のアパートに同居している。だが、二人は部屋の両端に寝て何事もない。女にはこの教団に恋人がいたのだが、幹部たちと一緒に居なくなった。アフリカに居るらしい。女はことあるごとにアフリカの地図を空中に描くのが癖になっている。
そこへ男の妻(=田村明美)が尋ねてくる。カミソリを入れた封書を送ったのも、無言電話もその妻だったのだが、この妻は陽気な狂気だ。この難しい役を田村は実に巧く表現した。有り得ない存在を有り得ると感じさせる際どい役作りが成功して印象的な妻となった。
傷ついた切ない女は淡々と何を考えているのか分からない存在、この新人は、どこかで爆発したら面白い役者になれそうだ。そして男も新人、有望な新人が二人増えて楽しみな集団になってきそうな予感だ。
暗転中に流れる曲が、この二人イヤ三人の心境をとてもよく表していたので終演後に聞いてみると、坂本龍一の「パラダイス・ロスト」という題だそうだ。なるほど……