演 目
野獣郎見参
観劇日時/07.4.13
劇団名/Bee Hive
作/中島かずき
企画/浦本英輝
脚色・演出/佐藤紫穂
舞台監督/妹尾和美 
照明/上村範康
音響/橋本一生・小林花絵
小道具/川崎舞
衣装協力/藤野羽衣子
振付/佐々木るみこ
殺陣師/吉田真生
制作/大門奈央子・長谷川碧・小玉乃理恵・荻田美春・外崎こずえ・瀬川友希子
劇場/やまびこ座

エンドレスな虚無の世界

 大阪の『劇団☆新感線』という劇団が、中島かずき・作、いのうえひでのり・演出という作品を専門に次々に上演し、「いのうえ歌舞伎」と呼ばれて最近とても人気が高い。
今年の正月には『朧の森に棲む鬼』という、その「いのうえ歌舞伎」を始めて観た。ものすごい莫大な仕込み費を掛けた絢爛豪華な舞台だが、内容は人間の「業」を徹底的に抉り出した虚無的で絶望的な話である。詳しくは前16号で紹介している。
この『野獣郎見参』も似ている。中島かずきの戯曲を札幌の演劇人が大勢集まって創ったわけだが、さすがに本物のように莫大な仕込み費を掛けるわけにはいかず、こじんまりとした作りになったのは止むを得ないだろう。だが、本火・本水が使えないのは「いのうえ歌舞伎」の大きな魅力を著しく殺ぐ。
同じように莫大な仕込み費を掛けて壮大な舞台を創る市川猿之助の「スーパー歌舞伎」と一見似ているようだが、「スーパー歌舞伎」はその話の内容が、人間の存在と未来に対する向日的な志向が強く感じられ、そこが「いのうえ歌舞伎」との根本的な違いではないかと思われる。
 さて今日の舞台。平安時代に絶大な権力を持った陰陽師の安部晴明の末裔同士の権力争いの真っ只中へ、野獣郎(=梅津学)という単に強いだけで人間味も頭脳も持たないまさしく野獣のような男が割り込んでくる。
「妖かし」という不死身の妖怪たちを操る安部西門(=松橋勝巳)の一統と、正当の末裔である芥蛮獄(=浦本英輝)の一党との三つ巴の死闘合戦。芥蛮獄の自分の意思に拠らない突然の寝返り。などなど複雑怪奇の展開は目まぐるしい。先の見えないラストだ。
巻き込まれた一般の市民以外の登場人物全員が不死身であり、妖術を使っての果てしない殺し合いの連続で終りのない抗争は不自然に感じるが、しかし現代の現実社会でも不合理な人物や不条理な現実は、まるでモグラ叩きのように不死身なのだ。その焦慮感は荒唐無稽ではない。充分にリアリティが感じられる。優れて現代風刺を含んだ娯楽劇的悲劇だといえようか。
舞台装置は素朴だがよく馴染んでおり、役者たちはタフであり2時間以上の全編は圧倒的にチャンバラの連続だが、一糸乱れず迫力充分だ。だが武具が木製でチャチなのが至極残念だった。
 出演者を紹介する。
山村有樹子・棚田満・伊藤しょうこ・佐々木彰・進藤智生・三富香菜・吉田真生・長流3平・渡邉ヨシヒロ・三宅亜矢・川村紳也・大沼誠・三戸部大蜂 
この方たちは残念ながら役柄名が不明であった。