演 目
映画/さくらん
観劇日時/07.4.7
「さくらん製作委員会」製作
劇場/札幌シネマフロンティア
原作/安野モヨコ
脚本/タナダユキ
監督/蜷川実花
エグゼクテイブ・プロデューサー/椎名保
音楽/椎名林檎
美術/岩城南海子

絢爛たる色彩の象徴的な世界

 劈頭、大きな金魚鉢に悠然と泳ぐ極彩色の大きな金魚たち、それに被って江戸の遊郭・吉原の情景と、遊女たちがその金魚たちのように煌びやかに極彩色で迫力満点に描かれる。遊女たちはこの金魚たちのように、閉じ込められた生き方の中で、精一杯に飾り立てて観賞用の人生を生きているという謂いであろう。
『てめえの人生、てめえで咲かす。恋に揺れ、愛を選び、自分らしく本気で生きる青春』というコピーの一種の青春映画だ。現代の世相もこれに似たような環境と生き方が存在することの象徴でもあるようだ。
だが映画を観ての感想は、絢爛たる色彩の豪華な乱舞だけしか感じられず、これは変だと思って、タナダユキによるノベルスを読んで見た。ほんとうは安野モヨコによる原作マンガを読みたかったのだが、図書館にリクエストしたらこの本が来た。それも問題だが、まあそれほど拘るほどでもないかと思い直してこれを読む。
おどろいたのは本文が全部薄い紫色で印字されていたことだ。最近ではこういう方法が普通に使われているのだろうか? 始めて出会ったのでよくわからないが、僕の感覚では有り得ない一種の遊び感覚か、美意識なのだろうが、読み始めてみるとほとんど違和感がない。不思議な印象であった。
さてなかなか面白い。女郎たちのいわゆる苦界と言われる環境の中で、痛めつけられても失恋しても自分の生き方を執拗に通す花魁「日暮」の存在は痛快である。彼女と周りの人々の織りなす波乱万丈の物語は、まさにキャッチコピー通りの「青春映画」だ。イヤ青春小説だ。
特にラストで意外な、イヤこれこそがこの話の本質だったのかと思わせるいわゆるドンデン返しが待ち受けるが、ネタバラシになるので詳細は書かない。これもまた観た人、読んだ人の特権である。
それがなぜ映画では感じられなかったのだろうかという疑問が残った。絢爛豪華な色彩の乱舞に惑わされてしまったのであろうか? 自分の体調のせいでもあったのだろうか?