演 目
映 画/アルゼンチンババア
観劇日時/07.3.28
製作委員会/06年製作作品
原作/吉本ばなな
脚本・監督/長尾直樹
脚本協力/金子ありさ
音楽/周防義和 
撮影/松島孝助
美術/池谷仙克
劇場/札幌シネマフロンティア

身勝手な大人たち

 小さな田舎町に住み、石職人として誇りをもっていたはずの涌井悟(=役所広司)だったが、最近の機械化を虚しく感じている矢先、突然、若くして最愛の妻(=手塚理美)に先立たれた喪失感は大きかった。
 臨終の病床からも逃げ出し、そのまま高校生の一人娘「みつこ」(=掘北真希)一人だけを残して、行方不明になった。
 街はずれの荒れ野に遺跡のような廃ビルがあって、街の人達はアルゼンチンビルと呼び、そこに住む奇妙な年配の女をアルゼンチンババア(=鈴木京香)と呼んで敬遠している。
 偶然、悟の仲間・鰻料理屋(=岸部一徳)が、悟がそこにいることを発見する。みつこは詰問して連れ返すために勇気をもってアルゼンチンビルにアルゼンチンババアを訪ねる。
 父・悟は妻の死を受け入れることが出来なかったのだ。帰宅を拒否する父・悟。叔母早苗(=森下愛子)や回りの善意の人達も協力するが、悟はかたくなに内に籠もる。
アルゼンチンビルの屋上で、曼荼羅を彫刻しながら、アルゼンチンババアとの奇妙な愛欲生活を送る悟……やがて二人の間に子供が出来るが、ババアは産後の肥立が悪く死ぬ。
やっと正気に返った如く、悟は帰宅する。みつこはそんな父を受け入れ、叔母一家や町内の人たちと共に新しい弟を授かった宝物として受け入れる。
アルゼンチンババアの大きな愛情と包容力によって、喪失感を癒される悟。父への愛情一直線のみつこ。善意の周りの人たち……という触れ込みだったが、そうは観られなかった。
悟は、身勝手な男であり娘さえ放り出した、酷薄で幼稚な単細胞としか見えない、なまじ端正でインテリっぽい風貌が違和感を強く感じさせる。
ババアは、大きなというよりこれもかなり身勝手な愛情に感じられる。現実離れした風貌ならば納得したかもしれないが、若くふくよかで生臭い存在感が逆に薄気味悪い。
みつこの硬質な純粋さと、周りの人たち、白井兄弟(悪がき)や滝本信一(みつこの従兄妹)、田中直樹(マッサージ師)などのコミカルでリアルな存在が楽しい。