演 目
バグダットの夢
観劇日時/07.1.16
ムスターヒールアルス(しかめっ面のアリス)公演
作・演出/Dr.Salah Al-Kassab
照明/Ali mahmod Mahmad
音楽/Abdul Zahra H.Attia
企画・制作/平田修二・笠島舞 
協力/Tny Alice・NPO ARC
出演/Anas A.Ajeel・Israa A.Ibrahim
Yasir A.Abdul Kareem・Baan S.Shihb
Abdulkalak A.M.Ali 
劇場/シアターZOO

家族の悪夢の物語がイラクの現実にオーバーラップする

 真っ暗な舞台に、懐中電灯を手に手に持った観客が入って行って思い思いに当たりを照らして席に着く。
 正面奥にテーブルがあって、豪華な果物やワインや料理が並んでいる。客の懐中電灯が揺らめく。
 天井から水の流れる音や、その水が複雑に絡まるような雑音が聞こえる。部屋のあちこちに佇んでいたりしゃがみ込んでいた女2人と男が1人。上を気にし、叫び声を挙げる。やがて食事を始めるが、苛立ち焦る心境と恐怖の描写が続く。
 爆音やうめき声が聞こえ、別の男が現れて、3人に合流する。民族音楽が流れ、束の間の安らぎとダンス・シーンの一刻…
 やがて荒れた床をザッと片付け、椅子を4脚並べると4人が並んで挨拶を始めるので、カーテンコールかと思うと、袖から戸を叩くような足音のような音がする。恐怖と警戒…
 様子を見に行く四人は次々に殺戮される。様式化されているから、ここではそれほど怖さはない。
 さて僕らはイラクについて、悲惨な現状というものを知識としてもっているので、この舞台が人間関係のドラマになっていないとしても、先入観でイラクの人達の焦慮と恐怖の心境描写だと思ってしまう。
 途中で背景の壁にバグダットの炎上の実況描写が写し出されるので、そのように思い込んでしまうのだ。
 ところがあとでパンフレットの梗概を読んで驚いた。これはある家族の家が雨漏りして、直す術がなく、だんだん一家の仲が険悪になっていく話なのだそうだ。
 しかし考えてみれば今のイラクの実情が、雨漏りして直し様がない一家の苦悩と考えれば、この一家はイラクの現実のメタフアーになっているわけだ。
 台詞もほとんど無く、大音量の音響と民族音楽とダンスっぽい展開は、演劇というよりも彼らの祈りのように見えたのであった。