演 目
『義経千本櫻』『身代わり座禅』
観劇日時/07.1.5
劇団名/新春浅草歌舞伎
出演/片岡愛之助・中村獅童・中村勘太郎・中村七之助・中村亀鶴・市川男女蔵
劇場/浅草公会堂

歌舞伎の名作というもの

■義経千本桜 渡海屋 大物浦
 歌舞伎という芸能で展開される物語は、古典的名作といわれるストーリイほど一定のパターンがあるといわれている。ある事件やある英雄を軸にしたそのサイド・ストーリイの連作というものだ。
 この義経千本桜も例外ではない。どころか三大名作といわれているこの物語は、義経という歴史的英雄を巡るさまざまな人物たち、それは源氏方はもちろん、対立する平家方の沢山の英雄たちと共に、市井の名も無い架空の人物たちも大勢登場する。そして「たら」「れば」を頻発して奇想天外な物語を紡ぎ出す。
 その根幹は、当時の庶民たちが憧れた義理と人情に、がんじがらめになりながらも心情を全うした登場人物たちへの共感であろう。
そしてその人間関係は、現在の対人関係からは想像もできないような一種不条理な心情でもある。
 主人のために親や子の命まで差し出すような……そういう心情を、現代人にいかに的確に共感を持って貰えるように描き出すのかは非常に難しい。まして何百年も前の古語で特殊な発声法で、ダイアローグはもちろん、地方(じかた)という独特のバックコーラスも演奏されるのだから、現代人にとって理解不能と感じられるのは致し方あるまいと思うのだが……
 と思いきや、これが入場料8千5百円、一回・千2百人の客が、一カ月昼夜合計約50公演いずれも満席になるという不思議さ……
 しかも振り袖姿の若い女性の観客も珍しくないどころか、正月とはいえ大勢目につくのだ。そりゃ今を時めく獅童や勘太郎・七之助の兄弟が出演しているとはいえどもだ……

■身替座禅
 これは男の身勝手さと女の純情を描いた、判り易くコミカルな物語で客席からタイミングの良い笑い声が上がる。
 帰路、若い観客たちの話を立ち聞きしたら、やはり『義経千本桜』は話がよく分からない、それに比べて『身代わり座禅』は話が単純だし判り易く面白いと話していた。だが、ほんとうにこの『義経千本桜』の果てしない報復の怖さを感じているのだろうか? 表面的な華やかさだけに惑わされてはいないか……