演 目
朧の森に棲む鬼
観劇日時/07.1.4
劇団名/松竹プロデユース いのうえ歌舞伎
作/中島かずき
演出/いのうえひでのり
美術/堀尾幸男
照明//原田保
衣裳/小峰リリー
ヘア&メイク/高橋功亘
振付/川崎悦子・松本錦升
アクション&殺陣/田尻茂一・川崎正嗣・前田悟
音楽/岡崎司
音響/井上哲司
舞台監督/芳谷研
主催・製作/松竹株式会社
劇場/東京・新橋演舞場

痛快なピカレスク・ロマン

朧の森に住む3人の女妖怪の妖しい誘いによって、野心満々の男(=市川染五郎)が、得意の嘘八百の弁舌を重ね、野望に向かって成り上がっていく物語で、これは「マクベス」か「リチャード3世」か、井上ひさしの「藪原検校」か…
 さらに酒呑童子の世界が背景になっていて、3時間に亙るストーリイは奇想天外であり、それを一々紹介するのはあまり意味が無い。それは実際の舞台を観たものの特権であり、語れるのは、この舞台のもっている意味と魅力である。
 意味は簡単だろう。人間の持つ業ともいうべき野望と底無しの欲望の怖さ、世の中の全てはそういう人間の業から成り立っているとでも言われているようなペシミックな気分にさえなってくる。
 一方、魅力も簡単だ。金のかかった壮大な舞台装置、仕掛け、本水を頻繁に使い、目まぐるしく変化し逆光で目潰しを掛けてくる激しい照明、そしてロック調の音楽などなど、観客の本能的な官能を刺激し、無意識に気持ちを麻薬的に高揚させる。
 敵味方のはっきりと別れた構図の中を、舌先一本で両方を籠絡し成り上がる男の、一種爽快なピカレスクロマン。その中で単純に信じるところを信じ続けて裏切られる男(=阿部サダヲ)や女(=高田聖子)の悲哀。
さらには裏社会のドン(=古田新太)の哀愁、男女(=染五郎と秋山菜津子・真木よう子)の恋の駆け引きなどなど、巧く造られた展開は、3時間を全く退屈させない。
 カーテンコールでは、4回も5回も出演者を拍手で呼び戻しスタンデイングオーベーションまで出た。
1万2千円の千2百席が、1カ月昼夜満席になる大人気も頷けるが、こういう果てしない悲惨な人間の業を描いた悲劇の物語に対する観客の、こういう華やかな歓迎のような一種、熱狂的な反応を一体どう考えたら良いのだろうか?
その他の出演者。
粟根まこと・小須田康人・田山涼成・他多数