演 目
サボテンの体温
観劇日時/06.11.19
劇団名/劇工舎ルート
公演回数/第10回公演
作/赤玉文太
演出/高田学
舞台監督・舞台美術/田村明美 
照明/伊藤裕幸
照明操作/飯田慎治 
音響効果/高田光江
音響操作/田代麻美子
宣伝美術/ナシノツブテ
制作/高田学
劇場/シアターコア

私小説的戯曲か

 煮詰まった流行作家・南條雅人(=伊藤裕幸)の書斎へ次々に現れる編集者・竹上(=松下音次郎)や、中園(=中村ミハル)たち。作家は逃げ回る。
 そのドタバタのあとアシスタントと称する女・吾妻(=我妻志保)が現れる。彼女は作家の電子器具つまりパソコン関係の技術のサポーターであるというのだ。
 ところが実はこの女性は、この作家のゴーストライターだったのだ。作家が煮詰まった時、偶然、彼女が趣味で書いて居た原稿が編集者の眼に止まり流行作家・南條雅人の名前で売り出し大いに売れて以来、ゴーストライターになったのだった。
 離婚の書類を取りに来た南條の妻・幸江(=小川恵理)は、そのことを知っていた。敏腕編集者である妻は、その後の作家の作品にうさん臭さを感じていたのだ。作家本人も当然悩んで逃避していたのだった。
 作家は俄然、パソコンを投げ捨てて原稿用紙と万年筆を広げて熱い熱情をぶつける。
 書棚の上のサボテンは、かつて妻が贈った刺のある植物だったのだ。それを眺める二人で幕…
 この作品を書いた作者の私小説的な芝居だが、これは芸術作品だけの問題じゃなく、人間の生きるすべての場面に起こり得る精神の岐路を表現している話として面白く魅せた。
 惜しむらくは作家が新しい決意を示す時、いきなり原稿用紙に向かって万年筆を走らせる場面だ。こんなにいきなり原稿が書けるのなら、何も悩む必要はなかっただろうにと思われる。
 ゴーストライターの書いた作風ではない自分本来の作品が書けるというなら、この悩みは浅くなる。その辺の書き込みがやや浅いのが気になるが、自分の力とそれに真当しない評価に悩む人間の在り方をうまくコミカルに描いて面白い舞台になっていた。
 エンターテインメントとシリアスとの融合のひとつの実験は一応成功したと言えるが、作家と編集者とゴーストライターという題材が、一般的ではないのが受け入れられにくいのか却って興味が強くなるのか、きわどいところだ。僕は、物書きの苦悩としてみると共感と興味と関心があったのだが…
ここで面白い着眼点として、パソコンに疎い古風な作家より、時代の先端をいく技術者の書く文章の方が売れてしまったという設定である。しかもそれが古風な作家の作品として、読者の高い評価を受けたという皮肉である。
おそらく作者は、そこを意図したかどうかは判らないが、僕はそこに作者の皮肉を込めた作為を感じてしまったのであった。