演 目
Ein altes Haus(アイン アルテス ハウス)〜棲家〜 再演
観劇日時/06.9.13
劇団名/Theater・ラグ・203
公演回数/Wednesday Theater Vol.13
作・演出/村松幹男 
音楽/今井大蛇丸
音響オペ/伊東笑美子 
照明オペ/田村一樹
宣伝美術/久保田さゆり
劇場/ラグリグラ劇場

滅びの美学

 真っ黒な狭い部屋が、むしろ閉塞された旧家の雰囲気を醸し出す。初演を観た時は、それがいかにも貧弱に見えたのだが今回はそれが逆に旧家の落ち着いた佇まいをさえ感じさせた。おそらくたっぷりと使った黒幕のせいであろうか? たしかその条件は初演時と同じ筈なのだが……余計な装飾がないのも良いし、3脚のテーブルと椅子は多分新しい多少豪華に見えるものを使っていたような気がする。
二つの家族の、オドロオドロしい関係の物語は三島由紀夫の世界さえも感じさせる。高貴で美しいと思われている家族が自滅していく経過が、自虐的にしかしナルシムズの感情を伴って悲しくも美化されて描き出される。
音楽が観る者の心情にヒタと寄り添って、この切ない世界を増幅させる。
ラストシーンにチラと見せる家族5人の亡霊はもう少し見せた方が良くはないだろうか? これだとうっかりすると見過ごす危険があり、見ても何だろう? と思ううちに消えてしまい印象に薄い。イヤむしろその「何だろうか?」という一瞬よぎるはかない映像を狙ったのだろうか?
さてこの物語は一般にホラーとして受け取られているようだ。水曜劇の特性の一つにホラーの要素の強い物語がある。
ところでホラーの魅力っていったい何だろうか? 単純に言えば「恐怖」であろう。現実にはあり得ないような恐怖の状況に人はなぜ魅入られるのだろう? 「怖いものみたさ」という言葉があるけれども、「死」が最大の恐怖だとすると、人間は死を恐れると同時に死にいたる過程の不条理さを知りたいのだろうか? そんな理屈じゃないんだろうか?
考えてみれば『ディ・プッペン・シュピーレ』『折り紙』『棲家』など一連の水曜劇の系譜は、理由のはっきりしない謎めいた「死」に、隣り合わせた物語でもあったのだ。

出演/治江(長女)福村慎里子・正江(次女)田中玲枝・和江(三女)湯澤美寿々・徳次(執事)平井伸之