演 目
売春捜査官(女子アナ残酷物語)
観劇日時/06.8.25
劇団名/北区つかこうへい劇団
作・演出/つかこうへい
その他のスタッフは公開されていないので不明
劇場/道新ホール

明確に現れた意思

 つかこうへいの代表作『熱海殺人事件』の最新バージョンである。したがって全体の大枠はオリジナルそのままだが、内容はまったく違った物語になっている。
木村伝兵衛部長刑事(=黒谷友香)は女であり、しかも夜は趣味で売春を営業しているというとんでもない設定。
新任の熊田留吉刑事(=赤塚篤紀)の他に、チャオ万平(=及川以造)という禿でオカマの刑事がいる。これは新しい設定。犯人の大山金太郎(=逸見輝羊)はわりと既成のキャラだが、内容に重大な意味を持つ役割が与えられた。
他にマナブという刑事とピコというオカマの男が登場する。吉田学・杉山圭一・三浦祐介の三人の役者が紹介されているが、写真に役者名が記されているだけなので、誰がどの役なのか今となっては分からない。この3人は、さまざまな役で交代に登場する。
主役は部長刑事で売春婦という設定、しかも男好きで淫乱な性格、こともあろうに突然に生理が来たので部下の男刑事に手当をしろと、机の上に両足を広げて命令する。
これらの設定は、性別や上下関係や生きかたの秩序を全否定することの痛快さを感じる。
全編全員、超ハイテンションで怒鳴りまくる台詞は、何物をも破壊し尽くすエネルギーであり、正面切って怒鳴るような台詞も半端じゃない迫力は、相手役に言うというより世界中に向ってぶつけまくるという印象だ。
普通こういう怒鳴る台詞や正面切る演技は、臭くて恥かしいものだが、この舞台は同じようなことをやっていても徹底しているから、むしろ爽快だ。
今回の物語で重要なことは二つあって、その第一は犯人大山が原発の作業員で、事故で被爆したとき普通は広島か長崎の原爆治療の病院へ搬送されるのに、彼は東大病院へ自衛隊のヘリで緊急入院させられていたのだ。
それが何を意味するのか? 部長刑事は原発が兵器研究をやっているのを隠蔽する政府の秘密の意図があったと疑い、自分の父である内閣総理大臣を告発する。
ちょっとマンガチックだが、つかの怒りの原点が生の形であふれ出る。
もう一つは、九州の小島から若い女の子を女子アナの養成所に入れてやると巧言をもって誘惑し「女子アナ養成所」という名目の売春婦紹介所を経営しているという裏社会に苦しむ下層階級の人たちが朝鮮半島からの移住者たちであるという物語。
大山も木村伝兵衛も一皮むけば、その半島移住の下層階級の末裔だ。誰もがさまざまな位置を入れ替わって、ということは誰もがどんな位置に入れ替わらざるを得ないか一寸先は分からないということでもあるのだ。
事実、この物語では人物の位置がくるくると変化し見ている方が混乱してくる。
だがアリランの花を巡るエピソードは哀愁があって、この殺伐とした大捕り物攻防劇にしっとりとした感情をもたらす好シーンであった。