演 目 北緯43度のワーニャ 観劇日時/06.8.21 劇団名/TPS 公演回数/第19回公演 翻訳/神西清 演出・音楽/斎藤歩 照明/熊倉英記 音響/百瀬俊介 制作/本田裕一 宣伝美術/若林瑞沙 ディレクター/斎藤歩 プロデユーサー/平田修二 劇場/シアターZOO |
喜劇としての位置付け チェホフ自身が「喜劇」と銘打った真意がはっきりと判るような舞台。別に戯画化しているわけでもなく、特に何かを強調したり誇張しているわけでもない。むしろ淡々と描かれていると言ってもいい。 ここに現れた人物たちすべての存在そのものが喜劇なのだ。だからと言って人間の存在やその行動や、その考え方を否定しているわけでも全くない。むしろそういう人間のすべての営みを喜劇とみなしながらも愛(いとお)しみ暖かい眼差しを注いでいるようなのだ。 昔、戯曲を読んだ時には、陰鬱な救いのない陰隠滅滅たる感じがしたが、今この舞台を観るとむしろ暖かい気分になる不思議さ…… おそらく医者・アーストロフ(=斎藤歩)がこの世界を客観的に見る立場に位置ずけられているのだろう。だから医者はかなり戯画化とリアリズムとの際どい中途半端とさえ思われかねないオーバーな表現だ。だが基本的にリアリズムだから違和感はないけれど、喜劇性を感じさせられるのだ。 都会から来た俗物の大学教授セレブリャコーフ(=坂口芳貞)の後妻エレーナ(=山崎美貴)が、義理の娘、つまりセレブリャコーフの娘であるこの田舎地主の当主ソーニャ(=宮田圭子)のアーストロフに寄せる片思いの告白に応じて、医者アーストロフを呼び寄せ、彼が自分の作った地図を見せて環境破壊を証明する場面は、100年前に書かれた戯曲とは思えないリアリティが感じられた。 妹(セレブリヤコーフの亡妻)の娘であるソーニャを援けて、この農園を守るソーニャの伯父ワーニャ(=永利靖)は実直で、義兄であるセレブリャコーフを敬愛し、農園の利益をセレブリャコーフに仕送りし続けていたのだが、いまそのセレブリャコーフの俗物性の虚飾を剥ぎ取って荒れ狂うシーンや、そのワーニャの頭上にバラの花束を叩きつける母(ソーニャの祖母)など、戯曲からは想像ができなかったほど戦慄的な場面であった。 ワーニャの母でソーニャの祖母・原子千穂子のほか、近隣の貧乏地主・高田則央、乳母に山本菜穂、下男・川崎勇人。 |