演 目
様々な『箱』
梶 司

 信子、慶子、雄三の三人で演じる様々な箱の世界、世の中を箱に見立てた観察は鋭く、面白い。どんな箱の場面があったか思い出すままに説明する。

1、一立方メートル程度のカラフルな箱が散乱しているオフィスの場面からこの演劇は始まる。信子は電話を受け、呼出された社員が休みであることを告げると、相手は自宅の電話番号を教えろと迫る。しかしそれは会社の規則により教えられないと答えると、相手は憤慨して電話を切る。
その直後、信子は部長から顧客への対応の悪さを叱責される。社則に従った信子の頭は混乱し、フロアーにある箱を手当たり次第に投げ散らす。

2、路上に見つけた弁当箱程度の小さな箱に、信子は何が入っているのか(死体か爆発物か)思いをめぐらす。
 通りすがりの慶子はそれをただの箱としか理解せず信子の疑問を一笑に付す。二人で中を確認するとそれは爆発物だったのだが、慶子はそれを手持ちのニッパーで簡単に処理してしまう。

3、次の場面に箱はない。雄三と慶子の自由な愛の関係と信子の家庭生活に縛られたものの考え方の差を表現する場面だったような気がする。(これは見えない箱か)

4、大きな三つの箱が並んでいる場面。左端は空っぽ、真中は愛の人形劇、愛していながら男は自分の都合で女から立ち去る。
右端の箱には奇妙な箱が入っている。取出してみると人の首から下をすっぽり包む外套の様な箱、信子はその箱を信子と雄三に着せられる。

5、信子はその箱を着せられたまま見合いの場に現れる。信子の母親役は慶子、見合いの相手役は雄三(配役が立場を変えるのは三人芝居だから止むを得ないか)。
母親は娘の教育に自信を持って説明する。それに対し雄三は興味を持たず色々注文をつける。母はそれに合わせて箱を工作する。雄三はそれが気に入り箱入り娘の信子と目出度く結ばれる。

6、箱入り娘にも過去七回の恋愛経験があった。信子は初恋の彼を忘れられない。夫・雄三の愛にもかかわらず、信子は家出、結婚は破綻、信子は初恋の男性の箱の中に入る。
が、母親と雄三が信子を探すとそこにはいない。彼女は別の箱から引きずり出される。

7、彼女は棺桶の中にいる。人間の死が強調される。

8、雄三は掌に乗る程度の箱の中に宇宙を見つける。だがその宇宙は人間の一生に比べて遠大だ。地球や宇宙の歴史に比べると、人間の一生は約二秒に過ぎないという。
 (この解説は理屈っぽい。また二秒は唯一無二の解ではない。数値の取り方で様々の解が可能だからだ。)

9、再び路上にある小さな箱。ここではその箱に疑問を持っているのは慶子の方なのだ。信子は通りすがりの人になって現れる。
最初とは反対の人間関係が描かれる。こんな関係から抜け出そうとするがどこにも抜け道はない。これは人間の輪廻か。
 
人生で出会う様々な箱(規則、習慣、行事等々)。これらの箱の中の自由と抜け出す自由。でも、所詮それも箱の中。
そう考えるとニヒルに陥るが、見せられる箱の中味によって、観客に様々な感動を与えるという不思議さを演劇は持っている。