演 目
亀屋ミュージック劇場
観劇日時/06.6.28
劇団・公演/劇団イナダ組・札幌演鑑6月例会
作・演出/イナダ
舞台監督/坂本由希子
舞台/福田舞台
照明/高橋正和
音響/奥山奈々
制作/劇団イナダ組 その他多数
劇場/かでる2・7ホール

ユートピア・コミユニティの物語

 昭和の末期、浅草の歓楽街で人気のあった架空の演芸場「亀屋ミユージックホール」の芸人たちと、その周りで生きている人たちの古臭い人情喜劇、あえて「人情喜劇」という良い意味でのレッテルを貼ろう。予定調和の物語も先の見える話の展開も、ありきたりだなとは思うけれども、ストーリイ展開の巧さと、緩急に綻びのない演技者たちの芝居運びに見惚れてしまう。
 しがない、いつ潰れるのか分からないような、この「演芸ホール」は、一種のユートピア・コミュニティであり、それを必死になって守り抜こうとする善意の人たちに人間的な素朴な共感をもつわけだ。現代では実はそれがとても大事だと思わせる時代になってしまったわけだ。
 話は、いきなり下ネタから入るのだが、それがあまり下品には見えないのは時代なのか? 最初はやや抵抗があったが、客席が乾いた笑いに包まれていて、こっちも自然におおらかな気分になっていく。
 この話は前回に観た同じタイトルの芝居とは全く違っていた。「亀屋ミユージックホール」という大枠と、そこに集う善意の人たちの底抜けの人情話ということはそのままだけど、話の内容が全く違う。まあそれはあまり問題ではないのであろう。さまざまなシュチエーションでこれらの人たちの想いを現したということなのか。物語の内容はどっちでも良いのだ。要はその人たちの考え方・生き方なのだ。
 今回感心したのは悪徳警官の扱いである。最初楽屋に入り浸っている時は、単なる不良刑事だと思わせておいて、次に地上げ屋が来た時はただ脅えるだけだから、もしかして偽刑事か、刑事の職を免職させられたのかと思わせ、次にはやはり正規の刑事であることを証明し、最後に進退窮まった彼が自殺したことを報じる新聞記事が、元警官であったと書いている。二転三展して観客に微かな違和感を持たせながら最後にすっきりと納得させる。上等な推理小説によくある描きかたで、こういう部分が大きな魅力になっている。
連発されるギャグが滑らず、そこそこの微苦笑を醸し出しつつ、エンターテインメントとしては一級の舞台が創り出され、上質な演技に支えられた隙のない厚い舞台成果が楽しめたのであった。
 出演者は多数のため割愛します。