演 目
天使が四人
観劇日時/06.6.28
劇団名/劇乃素 艶屋プロデュース
公演回数/第2回公演
作・演出/松浦みゆき
照明/豊島勉 
宣伝美術/万年樹乃・茸工房
制作MARU
劇場/アトリエ練庵(旭川中心部の雑居ビル2Fの狭い一室)

老齢の開き直り

 認知症らしい老夫(=佐藤鍵)の寝ているベッドの枕頭は屏風で見えない。かがみ込むように覗き込むように看病しているらしい老妻(=小川恵理)。
 離れた場所にかつての恋人(=矢野つかさ)。二人のきわめて抽象的な会話。ランドセルを背負った老夫の幼馴染(=大友理香子)が小学生姿で、百人一首の「天津風雲の通い路〜」の意味を聞きに来る。
担任の先生(=石田千景)が来る。彼女は物理学専攻であるからといって、すべての現象を物理学的に解明するといいながら、その解説は叙情的だ。
後でわかるがこの4人の女たちは、過去だけに固執する認知症の男に何らかの形で関わった死者達であるらしい。「天使が四人」の「四人」は「死人」であると、あらかじめ説明があったので納得できたが、もしそれがなかったら、判ったかどうか保証できない。
前半は、解り難い会話が意味ありげに重々しく交わされるのが、ややかったるい。小川恵理の重厚な演技が難解さを増幅する。
 小学生が出る辺りから少し展開してくる。やがて女たちのやはり抽象的な会話が続いたあと四人は去る。
老人が起き上がり、意味不明な言動が始まると、老妻は看護人、幼馴染は医者、先生は看護師、かつての恋人は介護士となって登場し、四人がかりで老人を介護する。
過去の人物たちが今、老人の身近でその周りを取り囲んでいるということは単に役者が足りないから二役を演じているということではない。死を目前にした一人の老人が関わった死者たちが、いま形を変えて老人の目前に幻影として現れているということである。
佐藤鍵の飄々として説得力のある表現は、久しく舞台に立てなかった空白をまったく感じさせない好演で、復活を喜びたい。
 大友理香子の小学生がいかにもそれらしく微笑ましい。大友理香子はどの役も大友理香子そのものでありながら、逆に役の存在感を感じさせる不思議な役者である。
ラストシーンで四人がミニ日傘を翳して和風のダンスを踊る。これまでの舞台展開を一気に転換するのかと思ったのだが、このシーンもやがて話の本題である老人の哀切に収斂されていくかのような感じで終わったのだった。