演 目
夫婦善哉
観劇日時/06.6.25
劇団・公演/劇団演研vol54 シアターZOO提携公演【Re:Z】
作/平田オリザ
演出/片寄晴則
効果/神山喜仁
照明/相馬寛之・宇佐美亮
小道具/金田恵美
衣装/鈴木えりか
舞台監督/片寄晴則
制作/村上祐子・武田雅子・内山裕子
協力/南孝
劇場/シアターZOO

漂う人生の魅力

 チェホフ的な世界。どうにもならない弱い人間たちの、それでも何とか生きていく哀しくも愛しい人たちの人生の裏側を、顕微鏡で覗き込むように描写した1時間半。
 料理の腕は確かだが、酒とバクチに溺れたやくざな男・芳夫(=富永浩至)、そんな男に愛想を尽かして一人逃げた妻・智子(=坪井志展)、残された幼子の世話に来て、その頃開店した小料理屋も手伝っている智子の実妹・佐喜子(=上村裕子)。
 ふとした風邪が元で、はかなく逝ったその小学2年の娘の通夜に10年ぶりに智子は戻ってくる。幼子を残して去った弱みがあるとはいうものの、今は完全に芳夫を拒否するでもない心境の智子。必ずしも芳夫を憎くは思ってはいない佐喜子。お互いに探り合うような気を引き合うような3人。幼子が亡くなってから葬儀が終わった翌朝、智子が帰るまでの幾つかの断片が、暗転を挟んでゆっくりとじっくりと描かれる。
 この芝居は99年3月、龍昇企画によって東京アゴラ劇場で上演されている。そのときの劇評を第1次『観劇片々』第4号で報告している。そこには大体いまここに書いたと同じ様なことが書かれているが、最後に「競争社会の日々の軋轢に疲れた人々にとっては、この男の無責任な生き方というのは案外魅力的であるのかもしれない……。精神的に疲れた人々は心の緩みを無意識に求めているのかもしれない。そういう時代なのかもしれない……。しかし女は? 女も?」と書いてあった。
 「(睡眠時間を削ってでも目標達成のために命懸けの人たちを伝えるTV番組を紹介し)その過程の理不尽な非人間性に耐え切れないと思うのがむしろ健康的な普通の人間の心情なのではないのか、だからこの冴えない中年男に素直に感情移入できるのだろう」とも書いている。
 いま世相は既に競争社会は終わった感じだ。二極分化した社会の中では、この3人のどちらとも就かない中間層的な存在が却ってほっとさせるのかもしれない。
 この99年の上演には、馴染み客のずうずうしい男と、娘の担任の若い男性教師の二人が登場し、「日常の中の異常を際立たせる一種の狂気が印象的」とも書いている。