演 目
おれたちは天使じゃない
観劇日時/06.6.20
イッツフォーリーズ公演/旭川市民劇場例会
作/矢代静一
作・作詞・演出/藤田敏男
音楽/いずみたく
監修/土井丈児
美術/朝倉摂
照明/吉井澄雄
演出補/水野龍司
音響/反町吉保 
振付/チャチャ遠藤・坂上道之助・大原昌子
歌唱指導/林絵理
舞台監督/川瀬嘉久
演出助手/茂木紗月
振付助手/明羽美姫
プロデューサー/石川暁
制作/小川智由
劇場/旭川公会堂

綺麗事に終わらなかった

 知的障害をもつ少女(=歌納有里)の疑いを知らないイノセンスに、脱獄した3人の殺人犯(=西本裕行・井上一馬・大場泰正)が、次第に凶悪な心を開いていく物語のミユージカル。ここまでは先日の『ひとりぼっちのおおかみと七匹の子山羊』(「続・観劇片々12号」所載)と酷似している。
 大晦日、雪に閉じ込められた別荘で、姉娘(=坂口阿紀)の帰りを待つ破産した父(=伊藤和晃)は、知的障害をもつ天真爛漫な妹娘を道ずれに心中を図る。そこへ3人の脱獄囚が逃げ延びて忍び込むところから物語は始まる。姉娘を訪ねてきた恋人(=三品英士)とその父親(=福沢良一)。
 この父子の悪徳漢ぶりを大仰にカルカチァライズさせ、姉娘の失恋と新しい恋の予感を、巡回にきた警官(=金澤君光)のコメディリリーフを絡ませながら描いていく。
 3人の脱獄囚の個性がはっきりと描き分けられ、悪徳父子を巧く自殺に見せかけて殺したあと、死体を自由に操って巡回にきた警官を騙すところなど、まるで古典落語『らくだ』の「かんかんのう」のシーンのようで僕も大いに笑った。
 やがて県警の包囲陣に進退窮まった3人は、静かに最初に着ていた囚人服に着替えて、妹娘の目には背中に羽を背負って頭上に輪を持った天使の姿で、自首するために去って行く。
 男女9人の黒子たちがダンスの合間に、装置や小道具の出し入れを担当し、その突飛さに客席から笑いが絶えない。
 観客の素朴な小母さんたちが楽しんでいるのだが、今の世相の中では、この人間の性善説を単純に笑っていられないものを感じて、変な世の中になったものだと憂いと不安をもたざるを得ない。
 この脱獄囚たちには殺人の理由があるけれども、また少女の心に反応する人間性もあるのだ。現実とのそこの違いが恐ろしいのだが、逆にだからこそ今この話が大切なのかもしれない。そのことは『ひとりぼっちのおおかみと七匹の子山羊』のときにも感じたのであったが……