演 目
山脈をのぼるきもち
観劇日時/06.5.27
劇団名/劇工舎ルート
公演回数/第7回公演
作/鈴江俊郎
演出・照明/伊藤裕幸 
舞台美術/田村明美 
音響効果/山田健之
音響操作/松下宏
劇場/シアターコア

上質な娯楽劇

 よく書かれた戯曲を丁寧に演じると、面白い舞台が現れるという典型的な結果が生まれた。
おとなしい若い独身男・広島(=高田学)が、一人住むマンションに、高校時代の仲間でありバスケット部のヒーローであった岡山(=飯田慎治)が尋ねて来ている。岡山は博打で身を持ち崩し、最後に余り親しくなかった広島のところまで頼ってきたのだった。
広島は、そんな岡山が鬱陶しいが、かといって素気無く断わる気性でもない。何となくはぐらかしながら懐旧の思いを楽しんでいるようなところもある。この部分のやり取りがコントのような可笑しみを醸し出す。
高田も飯田も細かなデテールを丁寧に表現して、この二人の生きている現実の裏側まで想像させるような表現に魅入られる。
そこへ突然、下関(=中村ミハル)が闖入する。彼女は岡山と同棲している女性だ。いきなり書置きを残して居なくなった岡山の行き先は、ここしかないと乗り込んできたのだ。
3人3様の人間模様。岡山は下関に余計な迷惑を掛けたくないという思惑の、偽の愛想尽かし、下関はどうしようもないそんな岡山への愛情を捨てきれない、そして実は広島は、高校時代その同級生の下関を密かに憧れていたのだ。3人の新たな関係性が絡んで進行発展する。
一夜明けて未明、岡山は密かに荷物をまとめて旅に出ようとする。目覚めた広島は、文無しの岡山になけなしの貯金通帳と印鑑を手渡す。したたかな広島は「40万円だけ使って後は返してくれ」と言う。「せこいなあ」と返答する岡山。
だがこのシーンはこういう現実を超えて、人間の信頼というか友情というか、金に頼りない岡山と孤独な広島との関係のあり方に有無をいわさぬなにものかを素直に納得させる。
岡山が去った後に起き出した下関は総てを了解する。どうにもならない人間の在り方。まるでそれは「山脈をのぼるきもち」のようなものでもあろうか? 下関は元気よく、そんな歌を歌わざるを得ない。
広島は下関に一緒にここで暮らそうと提案する。だが下関は柔らかく後退する。やっぱりそれはないだろうと……
広島のマンションが、2LDKの間取りのはっきりと判る造りで見事な出来栄えだが、奥の壁面の壁紙が皹が入って無残な仕上がり。いかに貧乏な独身男が住んでいるにしてもちょっと無神経ではなかったか。