演 目
映 画/ガラスの使途(つかい)
制作/アートン
観劇日時/06.5.26
原作・脚本/唐十郎
監督/金守珍
音楽/中島みゆき
劇場/シアター・キノ

血の滴るヒユーマニズム

 大都会ビルの谷間の一偶にある、荒れた和風庭園の一画にボロな平屋の旧い日本家屋。すでに唐の世界。
ボロ家の工場ではレンズの研磨に命を賭ける職人(=唐十郎)と、経営者(=稲荷卓央)と薄幸の少女(=佐藤めぐみ)との純愛が、壮絶な血の流れる中で展開する。血を流す痛みの中で確認される愛。扇田昭彦のいう血のヒューマニズム。
多少無理な話も混ざるけれども違和感はない。唐の話術と金守珍の映像美に乗せられて魅了される。例えば唐は頭蓋骨骨折の危篤状態から日も経たずに飛び出して乱闘したり、少女はダム湖の水中で水没した小学校のオルガンを弾いたりする。だがこのシーンの唐はスーパーマンだし、水中でピアノを弾くこの美少女のシーンは、切なく幻想的で美しい。
最近こういうロマン溢れる壮大な仕掛けの幻想的な芝居が少なくなったので、この映画はそういう飢餓感を満たしてくれた。ただ余りにも話が見え透いていたのが物足りないような気もした。
余貴美子・石橋蓮司・佐野史朗・原田芳雄・六平直政など大物役者たちがちょい役で顔を出したり、いや余貴美子は後にこの工場の専務・稲荷卓央を助ける悪の側の女という役だし、六平は敵方の重要で不気味な役だが、その他大久保鷹・黒沼弘己・コビヤマ洋一・鳥山昌克・辻孝彦などなど、金守珍が主宰する「新宿梁山泊」や唐十郎の「唐組」の俳優たちが活躍するのも楽しい見ものだった。