演 目
兄おとうと
観劇日時/06.4.11
劇団名/こまつ座/旭川市民劇場4月例会
公演回数/第79回公演
作/井上ひさし
演出/鵜山仁 舞台監督/大内敦史
音楽/宇野誠一郎
美術/石井強司
照明/服部基
音響/秦大介
振付/謝珠栄
衣装/前田文子
歌唱指導/宮本貞子
宣伝美術/和田誠
アクション/渥美博
演出助手/保科耕一
制作/井上都・高林真一・谷口泰寛
ピアノ演奏/朴勝哲

シンプルな国家論・組織論の原点

 「民主主義」という語句が使えなかった大正時代、「民本主義」を提唱した政治学者で行動の人・吉野作造(=辻萬長)。その10歳年下の弟・信次は、後に大臣を2度も務めた高級官僚(=大鷹明良)である。二人はともに東大法学部を主席で卒業している実在の人である。
そしてその夫人たちは、実の姉妹でもあった。(姉・吉野玉乃=剣幸/妹・君代=神野三鈴)。
「憲法こそが国家を支える根本であり、国民はすべて憲法に従って生きることこそが、国家存在の根源である」とする弟・信次に対して、「憲法とは、人々から国家に向けて発せられた命令である。」という立場の兄・作造。ともに国の在り方を考え、人々の幸せを追求するのは同じだが、平行線の議論は尽きず、遂に二人は義絶する。
間に入った賢夫人の姉妹は、本質的には兄弟仲の良い二人の夫たちを仲直りさせるべく奇策を用いる。
作意の強い井上作品らしく、大枠をこの二人が幼い頃から一緒に育たなかった事実から、成人してもたったの5回しか同じ部屋で寝なかったという多分フイクションを設定し、その5夜を5景にして四人の関係を描く。
そのそれぞれの景には、小嶋尚樹(巡査・右翼・説教強盗・零細企業の社長など)と、宮地雅子(女工・女中・説教強盗の妻・満州の売春宿の女将など)、二人がさまざまな庶民として登場し、八面六臂の大活躍、舞台を非常に厚みのあるものとして彩っている。
「握り飯が美味しく、戸締り火の用心、元気で楽しい毎日がいい」(僕の記憶の歌詞)という歌が最後に歌われる。つまり人々は生活の安定と、安全の保証、そして希望のある毎日こそが、国民・市民の究極の幸せである、というのがこの芝居の核であろうか。
ピアノの生演奏でこの6人が派手に軽快に歌い踊り、激論劇を柔らかくコミカルに楽しませる。設定に多少無理かな、ご都合主義かなと思われる部分もあるけれども、そういうものを超えて、井上ひさしの思いがひしひしと伝わる、訴求力の強い舞台であった。芝居というものは無理な設定をいかに納得させるかが勝負であろう。