演 目
夜の行進
観劇日時/06.4.8
観劇日時/06.1.4
劇団名/渡辺源四郎商店
公演回数/開店公演
作・演出/畑澤聖悟
舞台監督/藤本一喜
明/岩城保・西本彩
オペレーター/葛西大志
音響/藤平美保子
舞台美術/三浦孝治
大道具/男学校
宣伝美術/木村正幸
協力/中畑夕紀
製作/渡辺源四郎商店
製作助手/菊池恵子・高坂秋生・野宮千尋
劇場/シアターZOO

土俗性の普遍化

 青森あたりの通称「カミサマ」と呼ばれる拝み屋のおばあちゃん・遠山みち(72)(=久保りつ)。神がかりになったおばちゃんだけれども、面倒見のいい庶民的な頼りがいのありそうなおばあちゃんだ。周辺住民の人たちの人生相談役みたいな存在であろう。
その家といっても、普通の応接間と公民館の小さな会議室の合いの子みたいな変な部屋だが、そこへ佐嶋金治郎(78)(=宮越昭司)が訪れる。腎臓が悪化して透析を受けなければならず、悲観した金治郎は38歳で若死にした妻・さと子の元へと行きたいと訴える。
遠山みちは一計を案じ、さと子の霊を呼び出し、ヘルパーの村上沙織(32)(=工藤由佳子)にさと子の生まれ変わりを演じてもらう。沙織もなぜかその芝居にのっていく。
少しボケかかった金治郎はすっかり信用して、いまや沙織なしでは生きていけなくなってしまった。
それを知った都会に住む長女・しのぶ(38)(=森内美由紀)と、八戸で中学の教師をやっている長男・明(32)(=藤本英円)が急いでみちに会いに来る。金治郎とみちは幼馴染であり、母の居ない姉弟にとって、みちは母親代わりでもあったのだ。
ヘルパーの女は財産狙いではないのか、という疑念、そして自分より歳の若い沙織を母と思い込む父を許せないしのぶ。しのぶと明はそれぞれ好き勝手に生きてきて、必ずしも二人は仲良くはなく、本当に父親のことを考えているのかも怪しい。
母は明の誕生と共に死んだのだが、その直後、父は二人の幼子を見捨てて別の女と一緒に生活していたのだ。しのぶと明は父を許せないその感情は同じだ。
しかし沙織に惹かれていくらしい明……
音信不通になったヘルパー・沙織を捜して夫・武史(34)(=佐藤誠)が尋ねて来る。沙織は武史の不実に耐えられず当て付けのような行動に出ていたわけだ。
さてラスト、沙織はどういう選択をするのか? したのか? 明の思惑は? しのぶの父に対する思いは? と全ては曖昧のまま微かな進展を予感させて終わる。
以上の通り、ごくありふれた物語の展開であり、どれだけのことが語られたのか、単なる風俗劇のようにも感じられる。人間関係の潤滑油として、人生経験の豊かな遠山みちのような存在の必要性が、土俗的な背景の中で軟らかくコミカルに演じられる。この人間関係の土俗的な存在価値が、現代にどのように普遍化され得るのか?
実年齢に近いと思われる二人の老優の実在感が凄い。しかも演技者としても実にリアリテイがあり、それが舞台を現実感の強いものにしているのが、この芝居の最強の魅力である。
カミサマの弟子という役で、コメディリリーフ役の安部耕平(28)(=萱森由介)が、面白い味を出していた。