演 目
冬の大三角形
観劇日時/06.3.18
劇団名/劇団 極
公演回数/シアターZOO提携公演
作/橋本一兵
演出/滝沢修
音響/大江芳樹
照明/鈴木静悟・鈴木志保
宣伝美術/NAVI
劇場/シアターZOO

古くて新しい家族の愛憎劇

 橋本一兵の戯曲としては珍しく、具体的かつ現実的物語だ。能天気で天然ボケで生活力がなく、夫の死後パチンコ三昧の長女・鮎川優(=比屋定尚美)。しっかり者で冷静で甲斐甲斐しく姉の世話を焼く次女・遼(=竹内渚「劇団・パズル」)。大学生で、長女と諍いが絶えなく自己中心主義だが、それでも仲の良い末妹の望(=安藤真利子)の三姉妹。
三姉妹は、男の子を期待されながら三人続けて女だったために、父親から無視され続けた怨念を持ち続ける。そして最後に産まれた末弟・快(=横溝将平)は高校生になり、父親の過度の期待のプレッシャーに負けて内向的になっていた。
母は責任を感じて父の言いなりになって不幸な人生を送っていた……と三人は思っていた。
父を殺さなければならないと暗黙裡に同意した三人は、公園のベンチで相談をする。長姉と末妹はアッケラカンと殺害方法や保険金の分配額などについて皮算用に熱中する。だが次女は一人冷静に、インターネットで殺人請負人・一角獣(=宮田正紀)と極秘に契約していた。
この間、三人は合間合間に公園にある大時代的な彫刻のある水道の蛇口で手を洗う。それは未然のマクベス夫人だ。
ある日、この公園の植え込みの下に埋められた父の死体が発見された。弟がバットで殴り殺したのだ。自分たちが画策したあの時間は一体何だったのかと呆然とする三人……
そのころ母は後追い自殺をするが、実はこれは次女・遼が殺人請負人・一角獣に依頼した嘱託殺人であった。
もっと早く死ねば父は苦しんだのにと後悔する次女。見上げる冬の空には、空の大三角形が春の兆しを見せていた……
さて、みたところ話は肉親であるがゆえの愛憎劇であり、三人姉妹の寒々とした心情が冬の大三角形の星座に象徴されている。多分それがこの芝居なのであろう。
だがそこに何かの寓意を見出そうと焦るのは、観客(この場合、僕のことです)の業であり不幸である。それというのも、この5人以外の登場人物である弟の同級生の変な少女・亜香利(=石川美也子)、ノンキャリアで重役直前まで登りつめた父親を篭絡しようとした不思議な女・真由美(=長谷川明日香)、公園の樹木管理会社の作業員(=太田真介・滝沢修)の二人。など添景の4人たちが何のメタファーなのかが気になるからだ。別に気にすることもないのかもしれないのだが……やはり何かあるような気がする。そこを解明しないとこの芝居をしゃぶり尽くしたことにならないもどかしさを感じるのだ。おそらくそれは、小さくは現代社会の縮図であり、大きくは国家や世界のメタファーなのであろうか?
冒頭、野球少年の快が、舞台端で力いっぱいバットを振り回し続ける。そしてラスト、一角獣も同じく力いっぱいバットを振り回し続ける。それらの行為は、快・少年にしろ一角獣・青年にしろ、一種のフラストレーションの解放としての肉体的行動であると理屈では了承しても、現実的にはこれがもしスッポ抜けて飛んできやしないかと冷や汗を掻いた。一番前に座っていた僕にもしも当たっていたら即死ものだ。これをも一つの演劇体験といえるのかどうか……
樹木管理会社の作業員たちが「仕事の邪魔になるからよせ」と言ったり、「ここではバットの素振りは禁止だよ」と言ったりするが、それは結局危険だからということであろう。劇の最中でもそれは起こりうる可能性があるということであり、そんな劇的リアリティはご免こうむりたかった。