演 目
農業少女
観劇日時/06.3.12
劇団名/「(プ)→」
公演回数/8th-project
作/野田秀樹
脚色・演出・音響/下屋義仁 
照明/塚本姫奈 
制作/佐藤真一・成田麻美・本多まさし・マツモトアズサ・山崎孝宏・山田ひかる
劇場/BLOCH

具体的な野田戯曲

 東京」と「農業」は、よく似た音声の響きを持っているのに、その実態はまるで正反対に違う、という野田秀樹らしい奇想から話は始まる。
九州の田舎の農家の娘・百合(=横嶋安有美)は、農業を嫌って家出をし、無一文で東京へ出る。親子ほど年齢の違う薬草学者の男・山本ヤマモト(=能登英輔)の好奇心と同情とを買い、旅費と宿とを得る。
少女は勤勉なわけではない。怠け者で浮気で良い格好したいだけで、さまざまなボランテイァ団体を渡り歩く。だがなぜか農業のことを考える団体に多く関わっていく。そしてそのことが自然に一種の文明批評になっていく。
ミーハー少女と奇妙で現実離れのしたパトロン親父の愛憎関係も、中年というかむしろ初老の男と少女との噛み合わなさが、男女のあり方の一つの典型としてみればそれも面白い設定だ。
さまざまな役を演じる男・ツツミ(=大谷啓介)と大阪弁の女(=三宅亜矢)と、たった4人だけの出演者は、才気溢れる演出で洒落た舞台を創ったが、白で統一した衣装が初めはちょっと突飛過ぎるかなと思わせた。だが芝居が進むにつれて、これはこの舞台の抽象性に見合うものとして受け入れられる試みであろうと思われる。
野田戯曲のイメージを裏切って、ずいぶんと具体的でハッキリと判り易いのが意外であった。
舞台は中央奥から舞台端まで敷かれたレールをイメージした二本の線が、農業地帯を象徴する地方と東京とを結ぶ絆らしく、あとは真っ黒で長方形の箱4個をさまざまに組み合わせて動かして、使い分けるだけの簡素で象徴的な舞台である。
具体的な野田戯曲を、あるいは野田戯曲をきわめて具体的なイメージで巧く舞台化した文明批評の一編であったが、しかしこれも元になる戯曲が良かったからだということに尽きる。それを裏切らなかったことの功績といえようか。