演 目
職員室の午後
観劇日時/06.3.11
劇団名/弘前劇場
公演回数/公演 2006
作・演出/長谷川孝治
舞台監督/野村眞仁・中村昭一郎
照明/石黒真紀
舞台美術・音響/石橋はな 
装置/鈴木徳人
制作/有限会社 弘前劇場
出演/福士賢治・長谷川等・山田百次・古川康大・鈴木真・高橋淳・永井浩仁・林久志・濱野有希・青海衣央里
   斉藤蘭・櫻庭由佳子・工藤早希子・平塚麻似子
劇場/シアターZOO

1時間50分のリアルタイム

 ある地方都市の高校3学年の職員室。中間考査初日の午後、現実の1時間50分が、その時間の流れの通りに過ぎて行く。そしてそれはまさに流れるのであって、劇的な事件やドラマテイックな起承転結が起きるわけでもない。
そして実習生や事務員、学校訪問の他校の先生や仕事で訪れた保険のセールスウーメンまでをも含めて、それぞれの背負っている人生が浮かび上がる……はずであった。
平田オリザのドラマツルギーによく似ている。しかし平田戯曲は、何気なく流れる時間の裏側に透けてみえる登場人物たちの背負っている人生が強烈に感じられるのに対して、この職員室に居る人たちのそれが見え難く、その人生の重みが弱いような気がする。
たとえば実習生同士の恋愛問題も、あまり深刻とは思えず、生徒の自殺騒ぎも人違いで安心してしまう。もちろん他人であろうと一人の人間が死ぬことの重さを受け止めるというシーンにはなっているのだが、直接に彼らと関係のないところでの話に転化してしまっている。
初対面の保険外交員に、いきなり結婚を申し込むのは話をほぐすための冗談だろうが、そしてそれを真に受ける外交員は冗談で返しているのだろうが、これが本気に見えてしまい、何の意味があるのか混乱する。観る者の想像力というか、妄想を逞しくさせるというエピソードともいえるが、突拍子すぎて荒唐無稽とも思われる。
この劇団の特徴的な演出法は、共通語で書かれた戯曲を出演者がそれぞれ自分の言葉、つまり役者個人の生まれ育った言葉で台詞を言うという手法だ。主に東北地方の言葉だが一人一人微妙に違う。実習生など意識的に共通語を使う。
これが実にリアリティがあって臨場感が大きく、舞台装置の現実感とともに、透明人間になって観ているような気がして、これこそ演劇の大きな魅力の一つであると思う。