演 目
月街「―moon town―」
観劇日時/06.3.11
劇団名/卒業unit青春トレイン
作/大坂梨歌
潤色/青春トレイン
演出/北本愛
舞台監督/佐々木宏治
舞台監督補佐/倉田友美
音響/木下知子
照明/金子このみ
制作/荒尾恵美
舞台デザイン/SHINO
舞台製作/田村純伊知
劇場/ドラマシアターどもW
(JR江別駅から徒歩8分、大正時代のレンガ造り建物の内部を改装した小劇場)

喪失と再生への青春詩劇

 小さな劇場の狭い舞台に、ゆがんだ行灯のような頼りない灯篭が7・8本、薄い灯を点して、くすんだビル街のように、あるいは墓石のように侘しく立っている。
ここが月の街らしい。「フランケン」と称する巨女(=江上麻友美)は、ある時は「色エンピツ」と称する絵描き志望の若者(=井頭やえ子)が憧れる「色エンピツ」の父親の画家でもある。
女優を目指す舞姫(=松延亜果音)と、その母親・幸子(=倉田友美)、長老(=荒尾恵美)と称する年配者、その5人が叶わぬ夢を追いかけて閉ざされた世界に暮らす暗い夢の街…。
一方、自分の存在を見失った若い男タカヤ(=恩田翼)は、愛した女との遺児・トーコ(=鈴木綾香)とともに、この月の街へと迷い込む。
この世界に馴染めるようで馴染めないタカヤ、無邪気のトーコはタカヤの唯一の慰めであると同時に、タカヤの幻想でしかないのかもしれない。
このあやふやな自己喪失感の中で漂うタカヤの青春心情の放浪……トーコは遺児であると同時に恋人の幼い時代の幻影。そしてまたそれはタカヤの幼児性の象徴でもあろうか。
五人の街の人たちと、この二人の交錯しそうで微妙に行き違うやりとりが、詩的な語句の台詞によって描かれ、時に応じて行灯に淡い赤や青の灯が入って、人々の心情の輪郭を形作る。青春の喪失感と再生への思いが、清潔に詩的に表現された好感のもてる舞台であった。
タカヤに対してトーコに透明感が弱いのが気になったが、幼時のイノセントな表現は巧く出ている。
朝日が昇って月の街が、白日の元に露わになったときトーコは死んでいた。タカヤは再生へと目覚めていくのだが、この場での月の街の住人たちのコーラスはいささか生臭い。
全編に流れっぱなしになっているBGMは、メリハリがなくただ流しているだけなのは邪魔でしかないようだが……