演 目
乃崎さんのついた嘘
観劇日時/06.1.27
劇団名/劇団イナダ組
公演回数/第32回公演
作・演出/イナダ
照明/高橋正和
舞台/フクダ舞台
音響/奥山奈々
音楽制作/飛渡健次郎
舞台監督/坂本由希子
企画・制作/劇団イナダ組
劇場/やまびこ座(札幌東区・児童劇用の劇場)

辛口の家庭劇

 没落した資産家らしい旧家に一人住む初老の未亡人・浅沼シズ江(=棚田佳奈子)。一男二女(長女・梅川希代子=小島達子 長男・浅沼茂=川井J竜輔 次女・浅沼さつき=宮田碧)は普段はあまり寄り付かないらしく、茂にいたっては長らく音信不通だが、この3人ともあの手この手で母親の財産を狙っているようだ。
最近こういう家族物語が描かれる舞台として、超リアルなまるで映画かTVドラマのセットのような和室が造られることが多いのは、現実にはこういう本格的な木造住宅の和室がすっかり見られなくなったことへの郷愁であろうか?
さて、そこへインチキ金融会社安富ファンドの営業マン・乃崎俊介(=飯野智行)が、この未亡人のなけなしの財産を目当てに訪れている。一見誠実なこの乃崎さんをシズ江は全面的に信頼して、すでに大金を任せているらしい。
シズ江の資産を巡る三人の子どもたちと乃崎さんとの攻防戦が、リアルにしかしオーバーに滑稽に演じられる。
乃崎さんの会社に捜査の手が入り、シズ江がショックで倒れた時、三人の醜い骨肉の争いに乃崎さんの正義感が目覚め、シズ江の信頼に応えようとした乃崎さんは大バクチを打つ。
乃崎さんはシズ江の信頼に応えようとしたというよりは、切羽詰って三人に復讐しようとしただけのようで、今後の成算があったわけではないと思われる。子どもたち三人もそれぞれ納得したわけでもなく、シズ江自身も本当の子どもたちよりも、利害が追突して別れた息子・茂の恋人・三好奈美(=出口綾子)や、乃崎さんとの僅かな絆に微かな老後を託すしかないのだろうと思う。
イナダ氏自身が、当日パンフに「こんな家族は嫌だ〜!」という芝居だと書いているが、若い女性客が多い客席に一種の反面教師として描いてみせたのかもしれない。
若い女性といえば、開演前の前フリに大泉洋が登場すると、場内は物凄い声援と嬌声で沸き立った。こういう意外性を含めた集客法が巧であって、イナダ氏は「それを嫌っちゃ芝居なんてやってられないですよ」という言い方をして、それは一つの見識であろう。最近観客の年齢層も上がってきたそうで、イナダ氏の狙いは着々と進化しているようだ。
確かにプロ集団としてのイナダ組の力は強い。隙のない構成力と確実な演技力とは抜群であり、たとえば乃崎さんが千5百万円の大金を作った裏工作の設定は説得力がある。
演技力でいえば、おそらく30代の役者たちが演じたフケ役が見事だ。3人の老人たちは棚田佳奈子、叔母・智田冨美子(=山村素絵)、インチキ金融会社支店長・青柳淳一郎(=黒岩孝安)だ。この3人はいったい誰だったろう? と考え込むほどの化けぶりで、特に劇中劇の黒岩はこんな初老の俳優がどこに居たのか? と思ってしまった。
そして役柄が固定されていないことも強みだ。浅沼茂・役の川井J竜輔や希代子の夫・梅川信次・役の河野真也など、特異な存在感が強く役柄が固定しがちというか、イメージが独特になりがちだが、今回はそんな先入観を突き破っている。
そういう年配の役柄や、脇の役柄がきっちりと創られていて芝居の厚みを創出し、味の濃い舞台を創っていると感じられたのである。
その他の出演者は、
浅沼さつきの恋人・佐野彰=佐藤慶太
安富ファンド乃崎俊介の同僚・坪井浩介=野村大