編集後記


 ◇ 僕が敬愛する若いが古い友人がいて、『続・観劇片々』をお送りするといつも丁寧な感想が届く。本当の知識人とはこういう人かと何時も思っていたのだが、何をしているのかは知りません。そして今年、初めて年賀状を頂いた。
それには「社会保険労務士」「行政書士」とあった。僕のこれまでの人生の中では、間接的にこの職業の方のお世話になっているのだとは思うけれども、具体的にどんなお仕事なのかは皆目わからない。辞書を引いてもなかなかイメージが掴めない。でも正直言って失礼ながら見直した。まったく意表を突かれた職業だったからだ。僕が老後の住まいの選択肢の一つだった、温暖地で魚の旨いという千葉県にお住まいのOさんという方だ。

◇ 思えば今年は正月から吉兆があった。新年第一番にいつも行くスーパーで今年初めての買い物をしたところ、その金額が何と1,111円だったのです。1の4並びです。フォー・オブ・ワンですね。スリー・セブンより確率は1/10低い。今年は何か良いことがありそうだなとは思っても、基本的に僕はそういうことを信用しないので一応は面白がってそのレシートを取っておいたが、いつしか忘れていた。

◇ 2月12日、鷹栖町のメロディホールという所で、鷹栖町が主催する『第7回・熱闘3分間劇場』というイヴェントがあった。毎年、この時期にこの周辺の愛好家に呼びかけて、「舞台を3分間貸します」というコンセプトで短編演劇の、一種のコンクールをやっているわけだ。
僕の所属する劇団も、第3回から過去4回にわたって出場している。4回の参加で10作品を出したが、入賞は第3回の『傘』―渡辺貞之・作(審査員賞)、第4回の『♪ 世〜界のため〜二〜人はあるの〜』―松井哲朗・作(脚本賞)、第5回の『空を見上げて(大空の伝言板)』―五十川志織・作(審査員賞)の3舞台だけだった。
第7回の今年も旭川を中心に各地から、遠くは札幌などからの参加もあったりして、賑やかに総勢24チームがエントリーし、それぞれが5分前後の短い芝居を上演した。
 3分間といっても自称3分ということで、「自分はこれが3分だ」と思えばよいというものだ。事実やってみてわかったが、3分では到底芝居は創れない。うちの劇団からは今回は3チームが参加したが、どれも6〜8分くらいの上演時間だ。
1つめは、『ラ・ラ・ラ無人群』というタイトルで、佐々木和美/作、島田裕之/演出・音楽。
出演は鬼原明里・松平直也・水上明・加納千尋。
「現金自動受払い機に翻弄される人や、逆に機械にさえ安らぎを求めざるを得ない人などの現代風景を描き、最後にアッ
と驚く意外な仕掛けを仕込んだ」として、24本中ただ1本の「脚本賞」。
 続いて『セイギのミカタ』という作品。これは現役の高校生・大野将介が書いて、やはり島田裕之が演出・音楽。山上佳代子/衣装。出演は桜庭忠雄・松平直也・大野将介。
「成金のところへ強盗が入る。そこへ正義の味方が格好よく登場する。だが、3人3様に自分勝手で誰が本当の正義なのか分からない。これも現代の世相を巧く捉えた。そしてこれも最後にとんでもない愉快な仕掛けが施されている」として「審査員賞」。
もともとこの催しは、優劣を決めるものではないのだが、それでは寂しいので、「脚本賞」1本と、7人の審査員がそれぞれ1本の作品を選ぶ、7本の「審査員賞」を作ったのだ。
そして最後に、中学1年生と小学6年生の女の子、挽地美咲・小川千里・加納千尋の3人が考えた『紅葉の季節』。
演出/松井哲朗、音楽/島田裕之、衣装/山上佳代子。
「幼稚園の女の子が二人、一人は死ぬが6年後まで変わらぬ友情を保つという物語を、死んだ子を6年後に楽しい幽霊として登場させ、紅葉の美しさで彩った清らかな物語。中学生としてはとても演技がしっかりしている」として「審査員賞」を受けた。
ローカルな催しではあるけれどもレベルは高い。7回もやっているのでノウハウも充実しているし、スタッフのサポート熱意も半端じゃなく本格的だ。今回、出場3作品の完全入賞は快挙だった。

◇ そして3月。
演劇雑誌『悲劇喜劇』(早川書房・刊)06年3月号の「05年度演劇界の収穫」という特集記事に『続・観劇片々』が紹介された。50人の演劇関係者にA「戯曲」、B「舞台」、C「演技」、D「書籍・評論」という4項目でアンケートを求めたものだ。
原健太郎さんという紹介者の肩書きは「大衆演劇研究家」とあるが、僕の尊敬する優れた考察家であり理論家であり、さらに実践家でもある。月刊研究紙『笑息筋』の発行者でもあるその原さんが、D「書籍・評論」の項で、他の4冊の書籍とともに僕の『続・観劇片々』を、氏名と誌名だけだが紹介してくださったのだ。

◇ さて、手前味噌の自慢話ばかりだが、果たして4月には何が起きるんだろうか?