演 目
華の嵐
観劇日時/05.3.19
劇団名/グループ森アトリエ劇場
公演回数/―劇・空・間―其の五
脚本・演出・衣裳/小川道子
演出補・舞台美術・照明・音響/瀬田石和実
背景画/岡田玲子
道具製作/瀬田石和実・小川央一他
制作/小川道子・東海林真弓・田中真紀・椿めぐみ・牧庄吉
劇場/りとるわんコミユニティホール


歴史の狭間に生きる女性たち

 『源氏物語』の作者・紫式部が、その後権勢を極めた藤原道長一族の女性たちに、本当の女性の幸せな生き方を示唆するという演劇『源氏物語異聞』を、現代の女優たちが上演するために稽古をするという二重構造になった芝居。
こういう古代上流階級の女性たちの、女としての生き方が、現代の女性たちの生き方とどう繋がるのかということが、現代劇の俳優たちにとってどれだけのリアリティがあるのかという視点の掘り下げが表面的で物足りなさはあるが、着眼点は非常に優れていると思われる。
若い女優たちが台詞で言っているように、複雑なヒエラルキーと男女関係によって構成された相関図がわかり難いのと、それに付随するたくさんの古語が、特に若い観客には難解であろうし、歴史的な事項も一般の人には馴染みが薄く親しみ難い部分でもあり、もっと工夫があっても良かったと思う。そのせいかどうか客席も年配者が多かったようだ。
最後に「源氏物語」のオリジナルが消失したエピソードが描かれるが、オリジナルといっても結局、写本であり限りそれほどスリリングではなく、消失した原因が道長一族の女たちの怨念であるという点の説明が不足であることもあってか、あまり大きな衝撃はなかった。
作者はその件について様々な研究と推測をしているようであるが、この舞台では滅び行く平家の感傷としか感じられなかった。きっと何かもっと壮大なロマンがありそうだ。次作に大いに期待しよう。
この劇団はいつも人工的で不自然な演技スタイルが気になっているのに、何か妙な魅力があってつい足を運んでいたのであるが、今日の舞台は思ったよりずっと自然でリアルな演技であった。
ところどころ装飾的な演技、例えば7人半円形に並んで座っている場面で、何かを主張する人物が立ち上がって大仰な身振りで台詞を述べるなどという形が気になったのだ。宝塚じゃないだろうに……
その中では、島崎真衣がメリハリの効いた自然体で好感がもてた。ラストの式部との問答という大事な場面で、勿体をつけ過ぎてブツ切れの台詞になっていたのは惜しまれるが、この島崎を含めて総じて良い舞台を創っていた。
もっともっと整理をして、例えば二十一世紀興業というプロダクションの記念公演などという大枠は不要で、いきなり稽古場のシーンから始まった方がすっきりと引き締まった戯曲になると思う。
ともあれ、やっと「グループ森」の存在が感じられる、とっかかりともいえるこの舞台に出会えたのは幸運であった。
このグループの唯一の魅力が、このマニアックともいえる30人定員の極小劇場である「りとるわんコミュニティホール」に拘っていることだったと思うのだが、ここにきてやっと芝居の本質的な部分で、存在を意識できるような日が来たような気がする。
できればもう少し大きな劇場で、たっぷりとこの芝居を上演するのを観たいと期待させるものがあったのは確かである。
出演は
紫式部・女優吉宮さゆり・他=東海林真弓
平清盛妻徳子・女優麻生真理・他=田中真紀
紫の上・女優池上涼子・他=海野尾由美子
道長妻彰子・女優浅野響子・他=岡田玲子
中宮彰子・女優中尾りえ・他=島崎真衣
平時子次女登子・歌手・女優石川もも子=飯沢菜奈子
平徳子・アイドル女優松島ゆかり=山本千草
藤原道長=中橋一維/演出家悠木千恵=椿めぐみ
演出助手野口健二=清水孝俊/取材記者=小川央一
場内アナウンス=瀬田石和実
二十位世紀興業会長島田雄介=臼杵春輔