演 目
隣の王様
観劇日時/05.3.19
劇団名/清水企画
公演回数/第16回公演
脚本・演出/清水友陽
美術/松井啓吾
照明/清水洋和(ホリゾントアート)
音響/笠井美也子
衣裳/高石有紀
宣伝美術/鈴木謙彰
演出助手/佐井川淳子・近藤真澄
写真/高橋克巳
舞台部/中川有子・小室彰子
照明部/樋屋晴奈・森田梨絵子
制作部/平厚子・岩田知佳・久保田薫
制作/竹内沙織
劇場/BLOCH


説得力の弱い抽象的な表現

 狭い事務所のような部屋、後で分かるがラブホテルのフロントルーム。下手の間口1メートルほどは黒い壁で舞台面が塞がれた壁になっている。
その閉じられた空間の舞台側壁面に小さな穴が空けられている。そこからフロントルームへ直径3センチほどの白い綱が部屋の中へ出されていて、その先端はグルグル巻きにされて壁に掛けられている。
ブザーが鳴ると、フロントの男が奇妙なBGMにのってその綱を引く。黒壁は横に細長く隙間が開けられ、中では真っ白で巫女のような衣裳の女が、その綱の片方を引いている。しかも艶かしい呻き声を挙げながら……。この女は羊らしいのだが、何度も繰り返されるこのシーンはSEXの象徴のようだ。
この女は終わりまで一度も姿を見せず、メエーという鳴き声と呻き声以外は、辛うじて細い隙間からその動きが部分的に垣間見えるだけの存在だ。
やがて掃除婦が入ってくるが、これも現実離れの行動だ。ある部屋で羊のバラバラ死体があって、それを写真に撮ってきたが、フロントの男はそれが気に入らず鋏でバラバラに切ってしまう。
この掃除婦は今日で退職なので、後釜に応募してきた若い男は、この部屋が昔、自分の部屋だったと主張して昔のこの部屋のデティルをマニヤックに語る。
引継ぎのために掃除婦と若い男が去ると、今度は若い女が応募してくる。いいかげんなフロント男は先に来た若い男は自分の部屋だという無理難題を主張するからと首にして、後で来た若い女を採用する。
フロント男が客の注文に応じて、部屋へ性具を届けに出たあと、戻った若い男は後からきた若い女を、自分の妹にそっくりだと喚く。
この女は20歳なのに16歳と偽り、交際相手に携帯電話で嘘の誕生日を伝えて、何人もからプレゼントを毟り取る強かな女だ。一見清楚な美人ながら、エロチックな装いで客に届ける性具を弄んだりして、見た目と矛盾した白痴美的な、これも異常なというか現代的なというかそういう存在だ。
綱を触るなというのにフロント男の居ない間に触ったり、客室からの注文にアタフタと出入りしたり、掃除婦が出入りしたり、そして正面の接客用の窓口からは、女が猫であるらしい部屋空き待ちのアベックやら、銭湯帰りの常連客が来たり、それらとはなぜかフロント男は常識的な応答をせず、新入りの若い男女も風変わりに応対する。
フロント男が部屋を出た隙に、若い男は禁断の綱を長く引っ張り出して若い女をグルグル巻きにする。女がその綱をドンドン引っ張ると、その逆側の羊が引っ張っていたはずの先端をフロント男が引っ張る姿が、正面の窓口に見えて幕が下りる。
台詞の一語一語は具体的な語句であり日常的な言葉なのだが、それが一塊の会話になると突然、現実感の薄いものになる。同じように、その仕草も一つ一つはごくありふれた動作でありながら、全体の行動は何か抽象的な感じとなり、そのせいか役者たちも演じにくそうであり、抽象を意識した形で造った印象が強い。
むしろこの日常的な会話と行動とをごくリアルに演じた方が説得力が強いのではないだろうか?
ところで、この奇妙な物語は、一体全体、何を象徴して何を語ろうとしているのであろうか?
ラブホテルという設定からして、性の問題と関係があるような気もするけれども、その性の問題がどこへ繋がっていくのか……
出演者は役名がないので配役が分かりません。
男=岩尾亮・岩田雄二・城谷歩・赤坂嘉謙
女=高石有紀・中塚有里・佐藤舞