演 目
リリオム
観劇日時/05.3.9
劇団名/TPS制作=文化庁・社団法人日本劇団協議会
作/F・モルナール
翻訳/飯島正
演出/宮田圭子
照明/赤山悟(ホリゾントアート)
音響・演奏/百瀬俊介(shusa)
演出助手/佐々木里美
衣裳/黒丸祐子
劇場/シアターZOO


巧く生きられない男の切なさ

 生きることに不器用な男・リリオム(塩田悟司)。気持ちを巧く表現できない男。愛する者にも暴力を振るわざるを得ない男。愛していなければさっさとその傍を離れればいいわけだ。それでも愛されていることを本能的に感じている女・ユリ(林千賀子)は、妊娠を告げる。
男の喜びは爆発する。このシーンまで、男が本当にこの女を愛しているのかどうかは、はっきりとは分からない。露悪的な男の言葉や行動の表面を信じるならば、そんな不実な男からは早々と去ればいいと思うのは、後から逆算して考えることであり、その時点では中々男の真情は分かり難い。
このならず者の男の真情は、生半な表現力では難しい。人生の海山を潜り抜けた人間の滲み出るような味とでも言おうか、それは物理的な年齢とは関係がない。リリオムが生きて積み重ねた人生の年輪に見合うものでしかない。そういう意味ではこのリリオムは、かなり形で造っていた印象が強い。相手役のベテラン林千賀子や、変幻自在なマダム・ムシュカートの原子千穂子の老練な魅力に助けられて、リリオムの荒っぽい苦悩が浮き彫りにされている場面が何度かあった。
この劇団は最近、楽器の生演奏を多用する。演劇をエンターテインメントの面からグレードアップする手法の一つとして使われているのであろうが、現在のところ実験の段階を超えるものではない。邪魔にならない程度というか、芝居を壊すなといいたいところ。しかし観客としては暖かく見守っていきたいとは思う。