演 目
映画/故郷の香り
中国映画/03年作品
観劇日時/05.2.27
原作/莫言『白い犬とブランコ』
脚本/秋実
監督/霍建起
劇場/シアターキノ


純愛映画の傑作

 この映画については梗概を書かずに、僕の印象に強く残ったことだけを挙げておくことにする。
まず映像が素晴らしく美しいということ。たぶん時代と場所は、現代の中国の僻地寒村だと思われるが、まるで40年前の日本の農村のような風景が実に美しく懐かしい。ほとんど桃源郷だ。
住宅街は石造りでヨーロッパの小都市のようなイメージの中、青みがかった灰色の石で囲まれた狭い雨の路地を、赤いチエックの傘を差した若い男・井河(=郭小冬)が歩いてくるシーンは、息を飲む美しさで、若い男が赤い傘? 嘘? という疑問はその後説明され、しかも後半に来て重要な意味を持ってくる話のつくりの巧さ。
村の中央の広場にある巨大なブランコがみせる、静かに流れる全編の中での躍動感、そしてそのブランコがこの物語のターニングポイントになるストーリーテーラーぶり、ひとつも見逃せない展開だ。
この物語に悪人は登場しない。少女・暖(=李佳)をその気にさせた都会からの劇団の若い役者だって悪気があったわけじゃなく、彼女の思い込みが激しすぎただけともいえる。
そしてこの映画は無償の愛、自己犠牲の極致の純愛と言えるかもしれない。捨てたことを忘れることで楽になった男の身勝手に対して、愛する妻子が幸せになるならば、その妻子さえ元・彼に戻しても良しとする男(香川照之)の究極の愛の切なさ、そしてその切なさがこの女にとって最も幸せであったということに、僕はほとんど喉がつまり涙が流れた。
「故郷のことを忘れてしまって、10年間に一度も帰らなかった」という井河に対して、暖は言う。「あなたは忘れたくないから帰らなかったのよ」。この暖かさ……