演 目
もう風は吹かない
観劇日時/05.1.23
劇団名/桜美林大学+青年団
公演回数/国際協力50周年記念公演
作・演出/平田オリザ
舞台美術/松村知慧
照明/伊藤泰行
舞台監督/佐野功
宣伝美術/工藤規雄・高橋加絵・太田祐子・飯村朋美
演出助手/坂口幸枝
劇場/かでる2.7


かすかな曙光がみえる

 近未来の、架空の、青年海外協力隊、その国内訓練所のサロンが舞台である。平田オリザ得意の、その建物の核心的な位置にない場所に登場するさまざまな人たちの、物語にならない描写の羅列である。
登場人物たちはもちろん多数の訓練生、職員たち、そして視察のJICAの職員や外務省の担当官、見学の学生たちなどなど……
訓練生といってもさまざまで必ずしも篤い使命感の強い人ばかりではない。むしろ無目的や自分のためという人たちの方が多い。
職員たちだってそうだ。そういう訓練生たちの実情はよく知っているし、そもそもその職員たちも、もともと訓練所を出て海外へ赴任してきた人たちなのだ。しかも受け入れ国の事情やら対費用効果からこの海外派遣事業も今年一回限りで終了、この訓練所も閉鎖されることになっているという末期的退廃的な状況だ。
事件らしいことも起こらず、それぞれがマグマを抱える予感を孕みつつ時が過ぎる。そして、意思の弱い一人の訓練生が、禁止されている所内で酒を飲むという事件が起きる。彼には彼の屁理屈があったのだ。
そして少しずつ露わになっていく個人的な悩みや疑問がやがて協力隊そのもの、そして政治や外交やそれらを動かしている国家の問題まで考えさせていく……
たまらない挫折と諦観の一同の中で、仕事を終えて帰宅の準備をしていた食堂の賄いの若い女性が、「間もなく秋祭りです、楽しいですよ、今年は私も踊りますので、皆さんぜひ一緒に遊びに来てください」と言い残して去る。彼女は栄養士を目指して勉強をしていたのだ。一同は何となく救われたようにホッとする。
そして訓練生たちは、「軍隊小唄」や「ズンドコ節」の替え歌で、協力隊の自虐ソングを元気に歌い踊る。平田オリザの戯曲としては、ほのかな曙光がみえるという珍しい展開の話であった。