演 目
薔薇十字団渋谷組
観劇日時/04.11.28
劇団名/ステージワーク
公演回数/プロデユース公演
作/清水邦夫
演出/伊藤裕幸
照明/伊藤裕幸
劇場/シアターコア


今に通じる孤独と連帯

 60年代という政治の大きな暗転期にあった戦いの日々の、あの人たちの魂のように燃えるように並ぶ電気スタンドたちの灯火の列。
 あれから15年後、挫折し力を失い死んだ魂を抱えて孤独で失われた生の哀しみに逼塞する中途半端な青年たちの一人としての北野通(飯田慎治)。
 電気スタンドの灯りに死んだ身内たちの思い出を託して、生きているのか死んでしまったのか分らない毎日を辛うじて息をしている、あの政治の挫折の後を生きる北野。北野は東京・渋谷の街の片隅で「アンテーク北野」を営む古美術商だ。子どもはおらず、半年前になぜか妻は家を出て35歳一人身の毎日である。
 底辺まで落ちてもしたたかに生きるエネルギーを絶やさない女(田村明美)とのフトした出会い、そのほのかな純愛、それはこの戯曲が書かれてから25年後の今日にも静かな力強さと、積極的な女の行動は微かな頬笑みと生きる意思の象徴とを垣間見せる。
 秩序ある社会から疎外される娼婦との純愛は近松に代表される遊女との恋愛をも思わせる。その孤独を超える連帯の力には時代を超えるエネルギーを感じさせる。
 挫折と孤独の密室から、純愛と連帯との曙光への微かな期待を突然絶たれた男。しかし女の存在は男が見た一瞬の幻だとしたら……この中途半端な北野青年はどうやって生きていくのだろうか? 重く今を問い掛ける……