演 目
新・明暗
観劇日時/04.11.17
劇団名/二兎社公演
公演回数/Vol.31
作・演出/永井愛
照明/中川隆一
音響/市来邦比古
劇場/札幌市教育文化会館


遂に納得できない人生

 つまりこれは男・津田由雄(佐々木蔵之介)と女・延子(山本郁子)に仮託された人間関係の物語である。優柔不断な男とはっきりとキリを付けたい女との、そのキリを付けられない二人とその二人を取り巻く人々、吉川夫人(木野花)。由雄の旧友・小林/医者=(下総源太朗)。由雄の妹・秀子/他=(小山萌子)。秀子の夫・庄太郎/他=(鴨川てんし)。延子の父・岡本/他=(中村方隆)。酒場の客/他=(土屋良太)。などなどの割り切れそうで割り切れない、明と暗との錯綜と騒動との顛末との物語であり、そしてそれはまた男と女との関係だけに限らず、人間対人間の関係や集団対集団の関係にさえも普遍化されうる関係のあり方でもあるとも言える。話はだから簡単であり単純であり、自己保身と何とかそれを暴いて精神を安定して逆保身を全うしたいという男と女との丁々発止のバトル物語である。そういう意味では別に新しい状況でもないし、新しい設定でもない。あるのはひたすら男と女の自己確認であり、男は何故この女と結婚したのか? 女は何故この男と一緒にくらしているのか? それだけである。それだけであるのになぜかこの小物語は鮮やかにすべての世界へと転化し大物語へと変身する。つまり、この二人の関係はあらゆる関係の一つの根源を象徴しているといえるからである。
 一定の評価をもつ古典を現代化するというのは好きだけども、なかなか巧くいくとは限らない。どうしても時代背景に無理が生じるのだ。たとえば、この話の主人公のように「高等遊民」という存在が現在では難しくなっているということがある。
 ここではそれを巨大商社マンや高級官僚にしたことで納得のいく変形となった。いまやこれらの人たちは高等遊民化しているともいえるから、リアリティをもつと同時にカルカチュァされて風刺の対象にもなったのだ。
 濃淡をつけたモノクロームの巨大ブロックを積み上げて、ところどころのブロックを外して窓を開けたような、舞台全面に二階まで積み上げた巨大な舞台装置。それに蛇の目回しの回り舞台を使って次々と場面を展開し、まるで映画のようにシーンのカットを積み重ねる。
 休憩を入れて3時間5分はいささか長すぎ、途中ちょっとダレ気味のところもあり、そろそろ終わりかなと思うような部分もあったけれども、これでもかと繰り出される何役も兼ねた助演者たちの芸達者に救われて、最後まで退屈することもなかったのは幸いであった。