演 目
だから彼女は舟に・・・
観劇日時/04.10.28
劇団名/Theater・ラグ・203
公演回数/第25回公演
作・演出/村松幹男
照明/佐藤律子(ほりぞんとあーと)
音楽/今井大蛇丸
劇場/ポルトホール


過激で率直な闘争劇

 彼女はなぜ舟に乗ったのか? あるいは乗ろうとしたのか? 舟に乗って何処へ行こうとしていたのか?
タイトルはそういう、彼女とは誰でどういう人なのか?という疑問から始まって、「何故?」そして「何処へ?」「何をしに?」という謎解きの期待を持たせてこの芝居の幕は上がる。「若者たちよ戦え、戦わなければこの世界の未来はない」と叫び、村の人たちから嘘つきの狼少年と爪弾きにされていた少年・常之(森下誠)は、嘘つき男として排除され幽囚され遂に抹殺される運命にある。
 「あの少年はきっと本当のことを見通していた。近い未来にやってくる、この国の破滅の将来を恐れ、警告していたのだ」と感じたのは少女・芳江(田中玲枝)。
 みかけの平穏な現状を満喫し、物質的にも充足した日常にも満足し、そんな暗い未来なんて考えたくもない芳江の家族(父・=平井伸之/母=福村まり/兄・英輔=鈴木亮介/妹・和江=坂井秋絵)と村の人たち。家族の反対を押し切って、姿を消した常之の真実を追って村を出る芳江。やがて芳江の失踪を不審に思った英輔と和江の兄妹は、芳江を追って旅に出る。その3人を力で阻止しようと海賊に変身する両親ノノ
 一方、この星の将来を危惧する、宮沢賢治に出てくるような奇態な海洋学者(湯澤美寿々)と、新参のその助手(久保田さゆり)。海賊の手下たち(石田愛・瀬戸睦代・吉田志帆・伊東笑恵子)。エロ・サラリーマンに変装した刑事(村松幹男)、取り締まられる娼婦(伊東笑恵子)。そして、常之の偽者(田村一樹)……。
 それらが入り乱れて、それぞれがぬるま湯の現実に浸りきる現状の危機を炙り出す。すべての生命を産み出し、すべての生命の終焉を飲み込む地球という天体の奇跡的な海の力……、その海のことを考えない人間たちの自業自得が将来の人類の姿なのだ。だから常之と芳江は海へ向かうのだ。それは希望か? 絶望か?……
 演技者たちは、いつものシアター・ラグの狭い空間とは思い切り違った、ものすごくでかいポルトホールの舞台を、縦横無尽にのびのびと走り回って大きく動く。それはとても魅力的なのだが……。
 人類が破滅に向かって滑り落ちる姿を暴き出す物語は、確かに背筋を寒くするような焦慮感があるが、それを生の議論として、あるいは直接的な寓話として描き出すのも共に演劇としての訴求力は弱いのではなかろうか?
 これは地球環境についてのシンポジュウムの一般基調報告だ。いかに重要な議論ではあっても表現としての昇華が足りないと演劇としての感動も弱いと思う。村松幹男の過激な憤りはその通りだけれども、もっと違った表現方法があったのではないかと考えさせられる……