演 目
踊りに行くぜ!!
観劇日時/04.10.23
公演回数/JCDN全国巡回プロジェクト札幌公演
劇場/ことにパトス


小劇場的コンテンポラリィダンスの面白さ

 登場人物が少ない、仕掛けも少ない、上演時間も短いといった小劇場的な手軽さの中に、訓練された肉体が表現する抽象化された物語が、さまざまに創造されてとても楽しめる舞台である。全国から選ばれたチームの中から、今日の参加は4チーム。

 ?夜明け              中川希望・古市彩(札幌)

 予選からみて洗練されて熟成されてきた感がする。にも関わらずタイトルらしい若い情熱が漲っている。衣装を二人同じイメージにしながら、それぞれの特徴を出したのが印象的。

 ?第三惑星怒れる男・たびお・愛の短編    三浦宏之(東京)

 黒ぶちの眼鏡、黒っぽいネクタイ、白ワイシャツ。中年のサラリーマン風が紙袋を提げて出て、本物の新聞を読んだり、実物のタバコを吸ったり、ぶつぶつと即興の台詞、「今日は踊りに来たぜ」とか、新聞の記事を声を出して読んでみたり、客席の特定の誰かを見つめてニコッと笑ったり、暗転になったとき「あっ」「いやっ」とか小声で洩らしたり、多分小学校低学年の観客に「大丈夫、怖くないよ」などと声を掛けてみたり、かなり現実の時間と寄り添った流れ……
 「夜明け」とまったく違って具体的かつスケッチ風であるが、ポイント毎の身体の決まりが流石だと思わせる技巧の確かさを感じさせる。

 ?範ちゃんへ   身体表現サークル=常楽泰・竹内雅人(広島)

 若い男二人、裸身に白と赤の褌姿。踊りというよりは二人の宴会芸の延長。事実、大学の飲み会の一発芸からの出発だそうだ。
 4・5人の小学生たちに大受け、これはダンスなのか? 肉体の瞬間的な動きの面白さ、その即興的なリアクションのリアリティ。
 
 ?コノ世ノ      天野由起子
 
 非常に洗練されて自在に動く肉体の不思議。
 終演後のアフタートークでの質問に面白い意見があったので紹介したい。おそらくご自身がダンサーであるらしい女性であるが、現場の人らしい疑問を提された。「皆さん、汗を掻いていないのを、とても立派だと思いました。自分の肉体を自分の意思で統御するということは、汗を見せないということも入ると思います。どのようにしてその訓練をなさっているのでしょうか?」という質問でした。
 それに対して、天野由起子さん(この方は、全編すべて膝を付いた姿勢で上半身だけの踊り、下半身は長いスカートで覆っている。)は「上半身は半袖ですが、下半身は厚いドレスなので、下半身は汗でびっしょりです。外からはスカートが長いので見えないのです。」
 三浦宏之さんは、「そういう意識は大切だと思いますが、なかなか思うようにはなりません。汗はよく出ます。私は汗を掻きにくい体質ですが、なお努力中です。」といった当たり障りのない答え。
 古市さんは、「そういう意識はありませんでした。汗はよく出ます。今日も出ていたのではないでしょうか?」と正直であった。次に質問しようとしていた僕は、「質問の前に、今の汗のことについて僕の感想を申し上げます。自分の肉体を鍛えて自分の意思や想いを、自分の肉体を通して表現しようというのがダンスであるのならば、自分の意思で統御できる肉体の機能を鍛えるのは当然ですが、不随意筋まで統制しようというのは禅の修業僧か胃袋ポンプの芸人の訓練であろうと思う。裸のダンサーが叩かれて肌が赤くなる(「身体表現サークル」の舞台にあった)のは、それは生理的必然であり、それも一つの表現であるならば汗が出るというのもそれと同じではないのか、僕はむしろ汗に人間の生きていることの感動と魅力を感じる。」と申しました。
 このご婦人は、デテールが気になるらしく、次に「舞台を走るときの音や、倒れたときの衝撃音に配慮しているのか?」というご質問でした。それに対してほとんどの人が、そこまで考えていないという答えでした。当然だと思う。たとえば音楽や音響効果などには最善の配慮が必要なのは当たり前だが、不可抗力で起きる音についてはその音が全体の表現に何らかの影響を与えない以外は無視していいようだ。それは見る人が無意識に排除しているのだと思う。一種の黒子的バリア効果で防御しているのだと思う。人は無用なものは受け入れず、大切な情報は強調して受け入れているのだと思う。それを言い出すと限りがなく、それは必要悪であり、無視することにより、より大きな効果を期待しているのであった。
 さて僕の質問は、「天野さんは、全編、膝をついて裾の長いドレスで下半身を隠し上半身だけで踊っていたことの意味は?」というものであった、天野さんの答えは、「あの世とこの世の仲介者としての異体効果を狙った。」というものであった。
 僕は、「いつ立ち上がるか、いつ立ち上がるか? と思っていたが、そのうちにもしかしてこのダンサー嬢は膝から下がないのか? あるいは、そういう体型の人かなと思うほどリアリティがあったから、普通の肉体の人じゃないという意図は伝わったと思う。」と感想を申し述べた。