演 目
自転車と少年
観劇日時/04.10.13
劇団名/Theater ・ラグ・203
公演回数/Wednesday Theater Vol.13
作/森下誠
演出/村松幹男
劇場/ラグリグラ劇場


青年のような少年の地獄旅

  屈折した青年のような直情の少年(森下誠)。自転車を駆った青年のような少年が、闇の客席から闇の舞台へ向かって「僕は走る、青い清冽な空気の中を力いっぱい走る、走る……」。と、囁きながら登場する気配。この芝居から受け取ったオープニングの僕のイメージを再現するとこういう台詞になる。
 レフト7番のレギュラーの座をやっと掴んだ高校野球の少年が、山形から新潟を通って秋田までのサイクリング。しかもサビの浮き出たボロママチャリでの自転車旅行。
 多分、彼も高校球児なら当然の、地区大会を勝ちあがって甲子園への夢を持っていたらしい。ペダルを踏みながら、そして途中休憩のあいだ、彼は中途挫折した親友タカシへの呼びかけや、いつも自分を見守ってくれた母への思いなどを切々と語りながらの自転車旅行。引き篭もったタカシのレギュラーの座を奪った傲慢なライバルへ思わず金属バットを振り下ろした少年。止めに入った同級生たち4人に次々と振り下ろした金属バット。
 彼の日本海沿岸を北上する自転車の旅は、いまは既にこの世には生きていないこの青年のような少年の冥途の地獄旅なのであろうか……?
 河原で休む彼の頭上を通り過ぎる雑踏の懐かしさ……そして腹立たしさ……。朝の街を行く勤め人や登校の高校生たちに虚しく呼びかける青年のような少年……
 くたびれ果てた彼の頭上に叩き込まれた金属バットの乾いた響き……。やはり少年は、あの世の存在だったのか? 彼の頭上に金属バットを振り下ろしたのは……? 少年の最も愛する母親であったのか?
 一人芝居は、饒舌になるのが普通だ。状況や心理を表現するのはやはりどうしても言葉で説明するのが一番容易だからだと思うが、この舞台は意識的に台詞を少なくし、むしろ身体を動かすことによって、この少年の置かれている立場や真情を表現しようとする。
 そして汗まみれになった屈折した青年のような直情の少年は、ついに暗黒の闇の中に埋没する。残ったのは書き切れずに次々と破り捨てられて、舞台いっぱいに散った彼のノートの切れ端、捨て切れなかった彼の思いの詰まった丸められた紙つぶての海……だ……