演 目
この道はいつか来た道
観劇日時/04.6.13
劇団名/劇団北芸
公演回数/04年札幌公演
作/別役実
演出/加藤直樹
照明/佐藤徳子
音響/小高律夫
劇場/シアターZOO


別役心中物語

 ダンボールを引きずった中年の女性(森田啓子)、茣蓙を丸めて縛って背負った初老の男性(加藤直樹)。二人はホームレスらしい。例によってうらぶれた電柱、ひしゃげた電球の下の大きなゴミ入れのポリバケツのあるところで男女は偶然に出会う。
 これまた例によって突拍子もない会話を繰り返す。長年別役作品に取り組んできたこの劇団は、余裕をもって別役劇の喜劇性をうまく引き出して、客席の笑いを誘いつつ芝居は進行する。
 この笑いは、戯曲の台詞から生まれる可笑しさというよりは、演技者の肉体から醸し出される自然体の微笑ましさだ。
 話は進みそうで進まず、延々と繰り返される取り止めのなさ、ところがラスト近くなって芝居は急展開する。
 この二人はホスピスを抜け出してきた末期癌患者だったのだ。そして二人は偶然知り合い、愛し合い結婚するという演技を十日に一辺の割合で繰り返してきたのだ。つまり「いつか来た道」。
 この辺は観客に、真実の愛とは何かというような問いかけなのかなと思わせる。しかし、痛みや苦しみを感じさせないように死期を迎えさせるホスピスに疑問を感じた二人は、死とは痛く苦しいものだということを実感しないと、本当の死をまっとうできないと考えて、彼らにとっての本当の死を求めてさまよっていたのだ。
 ラストシーン、背中を持たせあって死を迎える二人に、静かに雪が降る。お互いに痛みを確かめ合うことは出来なかったけれども、凍死するのは確実であろう。寒く冷たい死の実感である。
 近松心中物語をも凌駕する、別役心中物語とでもいいたいような、美しい切ない愛と死のシーンであった。欲をいうとこのシーン、雪の量が少なかったような気がする。もっともっと壮絶に降る雪で、この二人を埋め尽くしてやりたかった。