演 目
折り紙
観劇日時/04.4.28
劇団名/Theater・ラグ・203
公演回数/Wednesday Theater vol.11
作・演出/村松幹男
照明オペレーター/村松幹男
音響/伊東笑美子
劇 場/ラグリグラ劇場


昭和史の縮図

「折り紙は、折る位置とその順番を間違えると、最初のイメージとは違ったものが出来上がる」という初見の感想は、今度観て大きく膨れ上がった。それは、昭和の前半を生きた人たちの葛藤を象徴的に物語っているのではないか? という発見であった。
 そこで、物語をもう一度、確認しよう。
 未遂に終わった3歳男児の我が子殺しの容疑者・平野千恵美(35)(瀬戸睦代)は、担当の国選弁護士・真田(登場せず)を解任した結果、新たに担当となった多田瞳弁護士(坂井秋絵)が接見する。
 平野容疑者は、絶対的な愛を求めてサタンと契約する。そして産まれた子はレイプされて出来た子であった。妊娠した千恵美は、その集団レイプをした三人のうちの一人・沢口明人(20)(登場せず)と同棲する。
 多田瞳弁護士は、恋人の、腕は良いが金儲けの下手な私立探偵・蛯沢篤史(鈴木亮介)に沢口明人の周辺を洗ってもらう。解任された真田(多田の先輩)も考えたように多田弁護士は、平野容疑者は沢田明人がわが子を虐待するのにいたたまれず心神喪失状態で殺そうとしたのではないか? と推測している。
 蛯沢の調査により、明人の周辺は意外な事実が次々と出てくる。そして連続して起こる奇怪な事件。平野はすべてそれらのことは自分が念じてサタンが実行したためだという。混乱した多田弁護士はついに平野容疑者の首を締める。
 囚房の多田に面接した蛯沢は、沢口は生まれ変わったように真面目に働き、殺されかかったあの子は今施設で明るく元気に過ごしていることを報告する。
 蛯沢は多田を愛してはいたが、多田の優等生ぶりに抵抗を感じて曖昧にしていた。だが、今は「模範囚になって早く出て来い。待っているから、出てきたら結婚しよう。弁護士の資格を失っても、お前一人くらい何とか食わせるさ」という心境になっていた。
 サタンは昭和天皇を利用した権力者たち、平野容疑者は国粋主義を盲信する一般庶民、蛯沢や多田は自由主義者、沢口を平成天皇、殺されかかった三歳児は皇太子徳仁とすると、これは見事に昭和史になるし、多田の獄中で蝦沢が語った娑婆のことは平成の現在を象徴することになる。
 これには天皇を利用した権力者たちと暴力団との類似性を説明しなければならなし、細かなところでは歴史とこれらの登場人物たちとの整合性を検証しなければ断言できないが、おそらくこの芝居は、昭和史の結果から逃れられない平成時代の虚構を炙り出した一面もあると言えるのである。
 関連して最近面白い文章に出会った。『座談会・昭和文学史6』(集英社04年2月刊)の、井上ひさし・小森陽一と大江健三郎との鼎談の中である。
 「ヤクザに通じる家族主義的なものが、日本の近代化に残っている最悪なものであると僕は考えています。ヤクザの家へ行くと、神棚が祀ってあって、神道つまり天皇制的なイデオロギーと結びついている。そしてヤクザたちが「親分」「子分」と言い合ったりするのは明らかに家族主義的なものです。(大江)P106」
 「『取り替え子』では(中略)ヤクザ組織や右翼組織と天皇制が、どのようなところで結びついているのかという、その構造がはっきり見える仕掛けがある。(小森)」P109」

 その他にもう一つ付け加えるなら、この両者には生産性がないということも共通項であろうか?