演 目
アレカラノコト
観劇日時/04.4.11
劇団名/劇団イナダ組
公演回数/第28回公演
演出/イナダ
照明/高橋正和
音響/奥山奈々・PAM
劇 場/道新ホール


苦悩する青春群像

 リビングに放送作家の姉(棚田佳奈子)、隣の部屋には一日中PCに取り付いている引き篭もりの弟・高野純平(加藤和也)。
 ある日、純平のPCに山口かおり(小島達子)と名乗る女性からメールが入る。微かな記憶の底から平は小学生のころを思い出す。そのころ彼らは一人の肥満児(河野真也)を苛めていた。中学生のころは一人シカトされていた少女(山村素絵)と偶然、音楽という共通の話題で気の合った肥満児は、そのことでまた辛い立場に追い込まれたのだ。
 そして高校時代、不良バンドの一員だった肥満児は、尋ねてきた女子高生たちを輪姦しようとした仲間たちを阻止しようとして逆に仲間はずれにされる。この女子高生の一人が山口かおりだった。
 大人になって両親に死別し、姉との二人暮しになった純平は、引き篭もりの生活になった。姉弟は互いに相手に遠慮し相手を気使うことで、己の精神の不自由を自己弁護していたのだ。
 純平あてのメールを、その後何度送っても返事がないことに焦れた山口かおりが純平を訪ねてくる。彼女自身も人間不信から過食症に陥った状況から抜け出したかったのだ。
 だが、そのとき純平は、自立したのか死んだのか、すでにこの家には居なかった。環境を変えようと一人、移転の準備をしていた姉は、かおりを歓迎し、送ることなく打ち溜めていたかおる宛の純平のメールを見せる。
 終幕はすっかり逞しくなった被虐児が強く生き変わっている小学生とその仲間たちであった。現在の純平はこの肥満児を自分の幼少時に重ねて見ていたのかもしれないし、この肥満・被虐待児の成人した姿が現在の純平なのかもしれない。この肥満児は巨体の役者(河野真也)が演じ、現在の純平は加藤和也が演じる。
 人間は変われるのか? 変われるとするならば、どうしたら良いのか? 小学校以来変われなかった自分が今、小学校で変われたのは儚い単なる妄想であったのか?
 舞台いっぱいに造られた姉弟の住む二つの部屋を主舞台とし、小学の時代、中学の時代はそのまま舞台前面で演じられ、バンド仲間の屯する部屋は、この姉弟の部屋がそのまま使われる。この小学生たち(江田由紀浩・飯野智之・すがの公・河野真也・小島達子・山村素絵・野村千穂・出口綾子ら)が出色だ。このうち何人かは中学生や高校生も演じるが、中・高生はともかく小学低学年を大人の役者が演じることの奇怪さはいつも気になるところだが、この舞台では見事に小学生になっていた。
 その他の出演者/川井J竜輔・岩尾亮・庄本緑子